15くち 9
「あのさ、買い出しを頼まれたは良いんだけど、都市じゃなくて郊外のここら辺の近くに、スーパーマーケットってあるかな。出来れば日系の」
「日系って限定的なのは、歩いて四十分前後の場所に個人のが最近出来たらしい。アジア系のなら二十分前後の距離だってリーフレットが、この間ポストに入ってた」
「そのアジア系のって、日本の食材についても書いてあった?」
「知らない。興味ないから捨てた」
「行ってみれば分かるか。地図を印刷したいから、パソコンを借りても良い?」
「使えば」
おざなりで素っ気無い返答をしてから、ダンケはもうなにも言わなかった。
マシューが日本に帰る前からちっとも変わっていない仏頂面で、ロッカーの中に腕を突っ込んでいた。
でも変わったのだ。
マシューが見ていないだけで。
ガレージへと続く扉から背を向けて、片っ端から家中の扉を開けて、最後の最後、二階の廊下の一番端に、プリンターがあるダンケの部屋と思われる扉を見つけた。
この家はどうやら見た目通り、バートがペットだけと暮らすにはあまりに大き過ぎるし、部屋も多過ぎるようだ。
キングサイズのベッドと、趣味の良い手作りのラック、淡い青の壁面に人との写真や、誰が描いたとも知れない絵が収められた額縁がいくつも飾られた私室が一部屋。
地下室へのなだらかなスロープに続く扉が一枚。
セミダブルのヘッドボード付きベッドフレームがある空き部屋が二部屋と、がらんどうが一部屋。
ウォークインクローゼット(衣装部屋)が二部屋。
壁面に鏡が設置され、トレーニング器具、楽器、音楽機材、防音設備の整ったスタジオが一部屋。
二階のサンルームから外を覗けば、こんなに部屋があるのに小さなゲストハウスまで建っている。
浴室はジェットバス。サウナ付き。プールが無いのは救いだろうか。
中でもマシューの眉間に皺を寄せたのは、今まで見たこともないドーナツのような巨大な円形状ベッドフレームが部屋中を埋め尽くしている大部屋だ。
ドーナツベッドは五人くらいは一斉に眠ることが出来そうだった。もし自分が眠るとしたら、どうやって寝返りを打ったら良いのか、マシューは悩んでしまった。
この家の元所有者であるバートの母親が置いて行ったものならば、彼女の趣味はだいぶ変わっているのだろう。
バートだとしたら、彼の趣味を疑う。