15くち 4
途中、タクシーの運転手に止めてもらい、フードトラックで飲み物を購入した。バートはタクシーの運転手にも、労いのつもりで飲み物とサンドイッチを奢った。
運転手とマシューとバートは三人で外のベンチで腹をいっぱいにしてから、またタクシーに戻り、二十分ほどしてからそこに辿り着いた。
バートは乗車代とチップを出して運転手にお礼を言って、車を降りる。
マシューも丁寧にお辞儀をして、バックミラー越しに手を振って去っていく運転手を見送った。
残った二人は、そこに立つ二階建ての立派な建築物を見上げた。
シングル様式、チューダー様式、コンテンポラリー様式を折衷した装飾的なデザイン。バートが作ったのか、ポーチにはよく研磨され、ほどよくニスが塗られた手作りの木製テーブルとチェアが置かれ、休日にここで読書をしたらこの上なく幸せだろうとマシューは考えた。
手入れがされていない所為か、庭には草が伸び放題だけれど、バケツやホースが転がっているところを見るに、恐らくバートの趣味の一つである"家庭菜園"をするスペースが雑草の下には隠されているのだろう。
家全体を広く柵で囲い、横に回れば、シャッターの閉じたガレージで彼が乗り回しているであろう愛車が埃を被って眠っているのは容易に想像が出来た。
更に裏に回ってみれば、ガラス張りの窓際の前の広いデッキがマシューを出迎える。ここで風景画を描くのに勤しんだら、きっと捗るに違いない。興奮したマシューは涎が出ないように口元に手をやった。
スイス系アメリカ人のバートの生みの母親が良いところのお嬢様で、彼女から貰った家と言うこともあり、一人暮らしをするには持て余すほどの大きさだ。近隣住宅もそこそこに離れており、少し車を走らせれば海にも出られて、"別荘として建てられたのだ"と土地そのものが主張しているようだ。
とにかく、ともかく、とにもかくにも、ダンケが「家内のみ」の管理をしている事情もあり、やや荒れた印象であるものの、立派な一軒家が郊外に建っていた。
「こ、これがお前の家?」
「ああ。しっかし、一年でよく汚くなったなあ。気合いを入れて掃除しなくちゃな」
言うと、バートはキャリーケースを引っ張って敷地を踏み越えてゆく。
マシューはその後も、しばらくバートの家と周辺の景色を見回して、呆けたまま後に続いた。




