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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
14くち「九畳一間のオンユアサイド!50の星と!1つの太陽!!」
188/270

14くち 9


「悪い。俺、こういう話をするのは下手なんだ。難しいだろ?俺は、難しいのが苦手だ」


「んん…まあ、いいんじゃないの。一応伝わっているから」



 バートが一人勝手にへこみ始めたので、マシューはそれをフォローしてやった。

 カモミールティーの最後の一口を飲み干すと、空のティーカップを床に置いて、マシューは自分もあぐらをかいた。

 そして、目元を親指で拭うと、また鼻を啜った。

 ティッシュの箱を渡してやると、「出るほどじゃないから」と言って突っ返されてしまった。

 バートは気を取り直して、話を続けた。


挿絵(By みてみん)


「だからマシュー。俺がなにを言いたいのかって言うと、お前にはこのまま日本にいて欲しいってことなんだ」


「…このまま?」


「卒業までは日本にいようぜ。お前が選んだ場所だ。お前がここで自立して、成長しようと思った大切な母国だろ?ここで得たものがたくさんあるはずだ。一日二日で別れられるものじゃないはずだ。お前の努力が、この国の神様みたいに、今のこの生活一つ一つに宿っているんだ。俺はお前と生活してきて、毎日そう感じる。期限はまだあるんだ。最終的にアメリカにするか、日本にするかは、もっと、お前なりの時間をかけて考えようぜ。卒業までは三時間どころか、一年もあるんだから。それでも足りなかったら、バックパッカーにでもなって、沢山の人と文化に会いに行こう。見える景色はより取り見取りだ。いろんなものを見て、もっと沢山の事を考えながら、お前らしい答えを出せば良い」


「……」


「マシュー・メルナード・日国は、日の丸背負った日本人。そうだろ?アメリカを選ぶなら、また元気なマシューに戻った時にしてくれ。今のは正しい判断じゃない。お前の為にならないよ。ここでよく考えて、ここで卒業しよう」


「……」


「ベッラと俺で最後まで見ているよ。俺とベッラはいつもお前の味方で、傍にいるから。ダッドとマムとダンケだってそうだ。俺達家族は、皆お前の為になりたいんだ。ここにいよう。ここでどうしたら良いのか、一緒に考えよう。いくらでもサポートするから」



 マシューがまばたきをするのと同時に、瞼の隙間から涙が零れて敷布団に落ちて消えた。

 まばたきをする度、瞼の裏に、アメリカでの生活と、日本での生活がフラッシュバックするようだった。



「ここが、一番マシューらしくいられる国なんだ。お前がそう選んだ場所だ。利用するだけ利用して捨てようとするな。自分の選択を認めて、最後まで責任を持って、答えが出るのを待つんだ。間違っていたかどうかは、その時に考えろ。きっと後悔しない答えのはずさ。間違っていないんだから」


「……」


「いいな?」



 マシューは浅く何度も頷いた。



「うん」



 頷く度に涙がいくつも零れてゆく。



「ありがとう、バート」



 僕はマシュー。マシュー・メルナード・日国。

 日本生まれ、アメリカ育ち。人種の違う親を持っている。

 六人家族の六番目。四人兄妹の四番目。

 性格は、どちらかと言うと神経質で、ちょっとネガティブ。


 でも、これが僕だ。

 僕はこれで良いんだ。

 ここが僕の選んだ場所なんだ。


 そしてこの人が、僕が選んだもう一つの夢だ。


 日本の第百二十四代天皇である、昭和天皇曰く、「雑草という草はないんですよ。どの草にも名前はあるんです。そしてどの植物にも名前があって、それぞれ自分の好きな場所を選んで、生を営んでいるんです」


 翌朝、アパート屋上のプランターから生えあがる、植えた覚えのない草の前に座り込み、マシューは抱えていたノートパソコンを広げたのだった。

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