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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
14くち「九畳一間のオンユアサイド!50の星と!1つの太陽!!」
186/270

14くち 7


 バートは百円均一ショップで購入した、マシューお気に入りのティーカップを用意して、ポットを温めて、やっぱりマシューお気に入りの紅茶屋で購入したティーバッグのカモミールティーを戸棚から出した。



「ねえバート、本当にいいよ?」



 本人は至って問題など無いように振る舞っていて、むしろバートの方がどうかしてしまっているのだと心配そうにしている。



「良いから大人しく待っていろ。落ち着いて話そう」



 どう見てもバートの方が落ち着いていなかったけれど、本当はマシューの方が混乱しているのだ。

 混乱している自分を、また無視している。また自分から目を離している。

 目を背けるなと言い聞かせて、一朝一夕で習慣づくものではないだろうけれど、一日ももたないものか。

 いや、目を向けていないことに気がついていないのかもしれない。目の向け方が分からないのかも。

 人の顔と自分の足下を見るのが習慣だったのだ。

 自分の短所と他人の長所ばかりを比べる人生だった。


 バートは氷の入ったコップに、よく蒸らしてから注いだカモミールティーを持ってくると、それをマシューに渡して「まだ熱いからゆっくり飲め」と指示を出して、自分は熱い熱いと猫舌に火傷を負わせて一気に飲み干した。

 マシューは言われた通り、しばらくカモミールティーの匂いを嗅いで、紅茶屋のことを思い出しているのか微笑んだ。



「よし話そう。どこからだっけ」

「僕が間違っていたってところ」

「ああそうだ。ありがとう。…そうなんだ、それが良くないんだ、マシュー」

「うん?」

「日本の学校はちゃんと卒業しよう。お前が選んだ場所だ」

「でも…」



 手元のカップを見つめて、マシューは立ち昇る湯気を吹いて一口含んで、また言い切る。



「もういいって思えたんだ」



 眼前のマシューは、この数年を無駄だとは思っていないのだろう。

 こんなにも、満足したように笑うのだから。

 出されたカモミールティーを美味しそうに飲むのだから。

 けれど、これまでを、"間違い"であったとは思うようだ。

 それが嫌だ。


 もういいじゃない。全然良くない。


 バートは昔、眠る前に話を聞いてもらう時、ベッドに座る自分の肩にブランケットをかけながら頷いてくれた、育ての母親のことを思い出した。

 その仕草が昔から好きだった。優しくて嬉しかった。母の冷たくて白い細指が懐かしい。

 育ての母の好きなところは、バートの頬に唇をくっつけてリップ塗れにするよりも、何気ない気遣い一つにささやかな言葉を添えて、バートラントは愛されていると自信をくれるところだ。

 バートはそれを真似して、マシューの背後でくしゃくしゃになっているブランケットを拾うと、それを肩にかけてやった。



「いいかマシュー。飲みながらで良いから、聞いてくれるか?」



 マシューは言葉通り、カモミールティーをまた一口飲んで頷いた。


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