14くち 2
他にも、バートは「本数を数える時の、"ほん"、"ぽん"、"ぼん"の使い分け方を教えてくれ」と言って、マシューは「促音の後は半濁音。撥音の後は濁音。清音の後は清音」と教え込み、「だいたいこれで正解する。あとはフィーリングの問題だ」と付け加えた。
そう言われたバートは、「今後、俺が助数詞を使う時は、考える為に一瞬言葉に詰まるかもしれないが、俺が言い切るまで正解は言わないでやってくれ」と返していた。
「うーん。それにしても、漢字は量が多過ぎるぜ…俺なんてまだ十個も覚えきれていないのに。しかも書けるわけじゃなくて読めるだけだしな」
「常用漢字は二千個くらいだから、使いこなすにはあと二百倍覚えなくちゃならないな」
「なにかアドバイスはないか?漢字がもっと覚えやすくなるような…」
「そうだな。漢字を一字で覚えるよりも、まずは熟語を覚えた方が分かりやすいかもな。僕はそうやって日本語を覚えたよ」
「じゅくご?」
「簡単に言うなら、一つより一塊ってことだな。熟語を理解して、何故その漢字が使われたのか、どういう意味を持ち、どういう役割をこなせるのかをきちんと見てやれば良いんじゃないか?覚えやすくなるかは保証出来ないけれど、見方が変われば感じ方も変わるんじゃないかな。例えば、「日」と「本」と「語」が合わさると「日本語」になる。日本は、日の本、日出国、とも言われていて、「日」は太陽や暦の単位を、「本」は根幹、お手本や書籍を、「語」は言語の単位や言葉と言った意味を持つ。これらが合わさった熟語が、"日本語"と言うことになるんだけど、どうかな?」
バートは途端に光明を得たとばかりに目を瞬かせた。
「そんならっ、日本って漢字は、太陽が大事なものって意味があって、その国の言語を表す熟語が、"日本語"ってことなんだな!」
「うん、良いね。熟語も良いけど、バートにはまず漢字の成り立ちについて、いくつか小話でも作ってやった方が、印象に残って覚えやすくなるかな。考えてやろうか。志士頭の文豪・盃 花美の台本全部を穴が開くほど読んできたから、こういうのは得意だ」
「嬉しいぜ!ありがとう!ぜひそうしてくれ!」
その日の日本語勉強は驚くほどバートに蓄積されてゆき、あれもこれもと手をつけていると、あっという間に夜は更けていった。