14くち 1
14くち「九畳一間のオンユアサイド!50の星と!1つの太陽!!」
桜並木を歩いて帰ってきた二人は、賑やかに夕食を囲った。
これまでも賑やかと言えば賑やかであったけれど、殻を破って一皮剥けたマシューとバートは、初めて家族らしく、兄弟らしく、ありのままの自分で語り合うことが出来た。
今まで二人で過ごしてきた中で、一番楽しい食事の時間だったのだ。
食卓にはマシューの手作りで、納豆と焼き魚と味噌汁が並び、バートの前にはオートミールとパンケーキとサラダと果物が揃った。
夕食のはずなのにまるで朝食だけれど、マシューは「今日はこれが良かったんだ」と言って箸を持った。
まさか自分まで朝食のメニューを食べることになるとは思わなかったバートは、これではきっと夜中に空腹になってしまうだろうと考えて、夕食を食べ終えると、夜食用にマシューが残した野菜味噌汁を豚汁に作り替えてもらって、冷蔵庫に入れておいた。
寝る時間になるまで、マシューはバートの日本語書き取りの勉強に付き合った。
なかなか覚えられないバートに腹を立てると、彼は胸を張って書ける自分の名前「バートラント・メリカン・日国」の文字を書き、「怒るんじゃなくて褒めて伸ばせ」と言わんばかりに見せつけた。
「甘ったれるな」と一括され、余計にスパルタ教師になるだけだった。
「なんでパソコンで打つ漢字と書く漢字の形が違うんだよー!混乱するから統一しろよー!」
「アルファベットだってそうだろうがよ!筆記とタイプは違うもんだろ!」
「ホントだ!統一してくれー!」
日本式ティーンエイジャーのように、「マジイミワカンナイ」「チョーイミフメー」が幾度か室内に響いた。
「ところで、漢字一つにこんなにたくさんの読み方があるのはどうしてなんだ?ただでさえ面倒くさい形をしているのに、一字にこれだけ読みを詰め込むなんてあんまりだぜ」
「そうだな、少し難しい話になるけれど、漢字って言うのは古代から存在する文字で、中国から数回に分けて日本に伝わったものなんだ。その数回の間に、中国でも時代によって形や読み方が変化して、日本も少しずつ学んでいったんだって。新旧統合したとても古い文字ってことだね。一度で全て伝わっていたのなら、読み方も語彙も今よりずっと少なかったのかも。ちなみに、漢字が来る前は大和言葉を日本では扱っていたらしいよ」
「……ううーん」
「その大和言葉と中国の漢字が混ざり合ったものが日本の漢字。元は中国から伝わった漢字だけれど、今では日本式の和製漢語も中国に伝わったりして、漢字はこの二国が影響し合いながら発展したものだって、父さんの"はとこ"から聞いたことがある。漢字が複雑な理由、分かったか?」
「………お前は俺が分かる言語で話してくれていますか?」
「話しているんですけども、…もっと噛み砕いた説明を考えておくよ」
「ずぇ~……助かる」
バートはマシューがなにを言っているのか分からなかったらしい。




