4くち 4
「でも、日本人ってオシャレに対する意識は高いけど実力はまあまあだよな。当たり障りが無いって言うか。無難にまとまり過ぎてつまんね。それに、着飾った分だけ生き辛くなるのに」
「はいはい。オシャレって言うのは当たり障りなく無難にまとめるもんなの。日本に住んでいる日本人に日本に居座っている外国人が文句を垂れるな。余所者なんだから大人しくしていろ」
その言葉には、バートはキャリーケースに突っ込んでいた手を引っ込めてマシューを振り返った。
「マシュー、その言い方は今後やめろ。その国に住む以上はその国のルールに則り、その国の人間に合わせるべきだが、善良な外国人のなんでもない個性や主義主張を押し潰して良い理由にはならないんだからな。俺はなにも"麺類と鼻水を啜るのを辞めろティーシャツ"とか、宗教を馬鹿にした服を着たいとか、わざわざ他国に来ておいて往来のど真ん中で外国人の横暴な権利の主張だとかをしているわけじゃなくて、ただ暑いからアメリカから持ってきた有名女優のミランダ・ディガンがプリントされたティーシャツと、何の変哲も無いハーフパンツを着て、お前と外出しようとしただけだ。今回はマシューの頼みだから聞く。いいな、お前がどこの人間かじゃなくて、バートラント・メリカン・日国の大事な家族だからだ」
バートは"大事な家族"と言う時に、ダブルピースをして、そのピースを前方に何度か折り曲げるジェスチャー「エアクオーツ」をしてみせた。
「……なに急に」
「朝から気分悪くなるようなこと言いたくないけど、もうちょっとだけ付き合え。お前とは二度とこんな悲しくなるような話をしたくないからだ」
「…」
「部外者だって自覚はあるよ。日本に馴染んで、文化や習慣やこの国の人を尊重するべきだ。ここは日本人の為の国だから、他国の価値観を押し付けるべきじゃない。でも、俺らしくいちゃいけないってわけじゃないだろ。ローマではローマ人のするようにしろとは言うけれど、ローマ人になる必要はないはずだぜ。俺は頭は良くないが、他国での振る舞い方はある程度判断出来る男だ」
「…」
「お前が言っているのは、服一枚と言うプライベートなことすら抑制した挙句、いかなる抗議もさせないってことなんだぞ。そこまで言っていないと思ったかもしれないが、こんな些細なことで日本だアメリカだと言い出すお前の言葉の端々からそう聞こえちゃったんだ。なあ、この国の自由はどこにある?服くらいどうだって良いだろ。裸でも男娼みたいな服でもないんだから。最低限のマナーは守っている」
バートがこんなにも捲し立てるのは初めてで、マシューはたじたじだった。
アメリカの家にいた頃からやっていた「生意気な態度」をしていたつもりだったけれど、度を過ぎていたようだ。
気まずくなって、視線を足元に落とす。