13くち 25
「そうかもしれない」
「うん」
「どんなにヒトと似通ったことでも、囚われずに僕が思う通りにやることが、僕らしさなのに、」
「僕はいつから、僕を置いてけぼりにしてしまったんだろう」
笑ったら良いのか、困ったら良いのか分からず、マシューはどちらつかずの憂いを帯びた表情を、口元に笑みを湛えて作って見せた。
「バート」
「うん?」
「僕は、僕を知りたい。もっと」
「うん」
「それで、もっと、バートのことを知りたいよ。マシューのことを知る為に。僕のことを、教えてほしい」
バートはマシューの掴みっぱなしだった肩から手を放し、二度強く叩いたきり、何も言わずに歩き出した。
残ったマシューは、向こうの山の影に少しずつ身を沈めてゆく太陽を見て、それに照らされて染まる桜を見て、
「バート」
立ち止まり、こちらを振り返る男に、
「寂しい思いをさせたかな」
初めて、マシューだと自覚出来る自分で話しかけた。
バートの脳裏には、弟がある日突然、家どころか国からも姿を消し、成す統べなく、またベッラがいなくなった時の状態に戻った記憶が過ぎっていた。
両親はあの頃のように沈鬱としておらず、むしろ息子が自分の道を自分で決めて旅立ったことを誇らしく思っていたくらいであったが、バート一人だけは、ベッラが死んだ時の心境と全く同じでいたのだ。
ベッラが死んだときなど自分はまだ二歳だ。ろくに考えることもままならなかったが、ベッラの写真を見る度に苦しかった時期がある。
いないベッラの写真を見て、そこにいるマシューの顔を見る度に、マシューに底知れぬ嫌悪感を覚えたことは、今でも覚えている。
二歳の自分が感じていたものは、きっとその時期と同じだ。
とにかく、寂しくて、激昂するよりも、ただ虚しかったのだ。
その隙間を埋めようと必死だった。
「うん」
バートは一言で肯定した。
それに対してマシューが返した言葉も、一言だった。
「そっか」
立ち止まったままでいるバートに向かって、マシューは歩き出した。
踏み出した足につられて、地面の桜が舞い上がる。
「帰ろう」
二人は少し遠回りをして、日没まで近所の桜並木を散歩し続けた。
フランスの作家、文学者、哲学者、歴史家であるヴォルテールこと、フランソワ=マリー・アルエ曰く、「独創力とは、思慮深い模倣以外の何ものでもない」。