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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
13くち「俺とお前のサウダーデ!嗚呼、麗しの日本国!!」
178/270

13くち 24

 

 マシューは首を振ってバートに訴えた。

 決して。

 決してと。



「違う。…違う!」



 マシューはようやくバートの瞳を見つめ返した。

 自分がとんでもなく馬鹿な勘違いをしていることに、十年近くもかけて気が付いたのだ。


 人と違うことをしよう。

 バートのように、けれどバートとは違う自分になる。

 そうすれば、きっと自分だけの個性がそこに生まれる。

 人真似ばかりしていては、それは自分ではないのだから。



 ありふれている。

 こんな考えこそが月並みだったのだ。



「好きなことだってやってきた。だ、だって、カードゲームも、ガーデニングも、紅茶も、楽器も舞踏も……他に…他には、え演劇だって、バートの真似みたいになったけど、本当に、志士頭演劇部の皆が格好良くてたまらなくて、僕もあの人たちと同じ舞台に立ってみたくて、色んな自分を知りたくて、心からやってみたかったことだ。日本語の勉強だって、バートと違うことをしようと思って始めたことだけど、でも、楽しくなきゃ続けてない。僕は自分のやりたいことを選んできたんだ。そうだ、お前の言う通りだ、バートラント」



 ガーデニングもカードゲームも紅茶も、好きな人なんて大勢いるけれど、自分はその大勢の好きな人の内の一人だけれど、それらを好いているマシュー・メルナード・日国は自分だけ。マシューなりの楽しみ方があるのも自分だけ。

 それが自分らしさだったんだ。



「ならどうして自分の考えを持って、信念のもとに行動してきたマシューが、どこにもいないことになるのさ。なんにもないことになるのさ。国に関係なく、俺からも離れて楽しめる大切なものを、そんなにたくさん持っているのに」


「……」


「ほら、ここにちゃんといるだろう」



 自分は自分一人だけ。

 これだけで既に偉大な個性であることを、認めようとしなかっただけだ。


 誰かの長所と自分の短所を見比べてばかりいた。

 鏡を見ずに、足下ばかりを見つめていた。



「マシュー、お前は本当の自分を知らないだけだ。それだけさ。認めてやってくれ。どんな自分でも。俺はいつだって受け入れるよ」



 バートの口からあっさり吐き出された言葉が、自分のこれまでを否定することも無くただ(さと)すように語り掛けてくる。

 自分らしさに囚われるあまり、自分を見失って蔑ろにしていたのだ。


 僕よりバートの方が、ずっと、マシューのことを分かっている気がした。


 バートの瞳を見つめる。

 エメラルドグリーンの瞳に映り込んだ自分を見て、自分の手元を見た。

 広げた掌に散った桜が降り注ぐ。



「そうか、…これが、僕か」


挿絵(By みてみん)


 その桜を手の内に柔くしまい込んだ。

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