13くち 23
「お前を尊敬しているよ。頭は良いし、運動も出来るし、良いヤツだし、リーダーシップもあるし、一人で生活する為のスケジュール管理だってちゃんと出来ていた。お前には力があるんだ。俺とはまったく違う力がある。マシューなりの力があるんだよ。今のは俺のほんの一部だ。お前の悩みもほんの一部さ。そのほんの一部がこれだけ違うんだから、全部を振り返ったら、俺達はダッド譲りの童顔以外、驚くほど別ものなんだろうな」
「……」
「お前に簡単に出来ることが俺には出来ないこともある。お前が好きでどうしようもないものが俺にはどうでもいいことがある。逆もまた然りだ。それって、個性ってことなんじゃないのかな。俺以上の一部分をお前は持っているし、お前以上の一部分を俺が持っていることもあるさ。俺達は、他人なんだから。どうだろう、これが今の俺達の経過で、結果ってことにはならないかな」
「……」
「マシュー、自分の粗探しばかりをしている暇はないんだよ。それも良いけど、それでお前の沢山の良いところを見逃さないでほしいんだ。俺がどんなにお前の良いところを知っていてそれを褒めたって、自分で認めてやらなきゃ意味がない。そうだろ?」
"なあ、お前になにが無いって?"
………。
「マシュー、俺と違うことをするのが、お前らしさなのか?本当に?」
「…ぁ……ぅ」
ああそうだ。
バートでない自分こそが―――
どうにかバートに反抗したくてそう口に出そうとしたところで、思い留まった。
躊躇いを感じた自分がそこにいて、その答えは誤りであると全身が訴えかけてきて、マシューの言葉を腹に押し込めた。
何故そう感じたのかが分からず、マシューも先ほどのバートと同じく、困惑の表情で小首を傾げて沈黙した。
「俺と違うことをするのがマシューらしさなら、マシューは今まで、自分がやりたいことを選んでこられたのかな。お前らしくやれたことは一つでもあったか?」
「…」
「俺と違うことをするのが、お前がやりたかったことなのか?」
「…」
「ヒトと違うことをすれば自分らしく個性的になれると思うのか?」
「…」
「自分らしく、なんて、個人の自由な感性と取捨選択の集大成だと俺は思うんだ。でも、世界は広いしなあ、多少意に添わなくとも、徹底的に他人と違うことをするのが自分らしさに繋がる人もいるかもしれないけど、俺は、マシューにはそれは当てはまらないような気がするんだ。意に添う形で人と違うことをするのは良いけど、望んでもいない"人と違うこと"は、お前の為にならないんじゃないかな。自分の感性に素直になっている時のマシューが、俺には一番魅力的に見えるんだ。マシューはどうかな。自分をどう見せたい?どういう風に振る舞いたい?今、どう感じた?」
「…」
「どこにでも自分を見つけられるようになるには、そのやり方がマシューの一番かな」
「…」
「本当に?」
マシューはパッと頭を上げてバートと目を合わせた。
酷く大切にしていた無くし物を、忘れた頃に見つけた落とし主のそれだ。
人混みの中で見失い、自力でようやっと両親を見つけた幼い迷子のそれだ。
理由も無く見上げた夜空に、思いがけず流れ星を見た人のそれだ。
それらの誰かが見せる、ほんの一瞬の瞳の煌めきが、マシューのベビーブルーの瞳にも閃いた。