13くち 22
「俺は将来、今より良い男になって、いつだってお前達にとって最高の家族だと思われたい。好きな人にとって最高の夫で、その人にとっても最高の家族でありたい。それと、学校に行って友達を作りたい。お前みたいに学校に通って勉強をして、卒業したいんだ。いつかする。きっとやる。それが俺の夢だ。家庭の扉も学問の扉も、いつでも誰にでも開かれているからな。いくつになっても遅いも早いもない。でも、出来たなら、もっと早くに、お前くらいの歳に、高校生をやってみたかったなあ。まだ当分は出来そうにないけど。俺は体も頭も弱い。取柄と言ったら歌ってはしゃぐくらいだ。だからお前が羨ましい。お前みたいになれたら良かったって、育てのマムと自宅学習をしながら毎日思っていたんだ」
「……バートが?」
「そうだよ。マムは先生もやってくれたし、友達でもいてくれたし、母親もしてくれたけど、でも寂しかったよ。ちっとも社会とのコミュニケーションが取れない状況は、家族だけじゃなくて、見えない他人からも置いていかれている気分だった。お前に追いつきたかったんだ。でもこれが俺だから、バートラントを楽しく生きる為には、今の自分を受け入れなくちゃ。俺はバートラントで、他の誰にもなれないんだから、寂しがったってどうにもならない。きっと他のなにかで、俺と繋がる縁がある。そう、俺の生みのマムが教えてくれたんだ。自分が出来ないことでへこんでいたって仕方が無いから、自分が出来る数少ないことをやって、自信を持とうと必死なんだ。いつだって。学校に行けなくても、頭が良くなくても、体を上手く動かせなくても、俺は俺の状況でちゃんと自立したい。舞台の上は、俺が自立出来る場所だ。だからあの場所で育ってきた。お前が学校で学ぶ間、俺は舞台で学ぼうとしたんだ。あれ以上の天職は俺には無い。俺は学校に行けなかった分、それ以外の分野でお前より場数を踏むしかないんだよ。俺達はお互いに場数が違う。状況も、違うんだ」
バートラントは、病弱で母に弱音を吐いていたあの頃の延長線に今もいる。
バートラントを楽しく生きる為に、彼を大切にする為に、多くのことを諦めて、上手く折り合いをつけて自分自身と向き合っている。
病弱だったあの頃を乗り越えたから今の彼が誕生したのではない。あの頃から育まれた彼が、今のバートラントなのだ。
舞台に立ち成功を掴めば降って沸いてくるようなものじゃない。