13くち 21
「それに、経過が望み通りでないなら、今のうちにいくらでもやり方は変えられるはずだ。自分に合う努力のやり方を、模索するんだ。今よりもう少しなにか違ってくるかもしれない。…悪い経過のままかもしれないけれど、でも今よりよっぽど可能性がある。自分ひとりで自分を作れるヤツはいないんだから、誰かの手を借りて変われば良い。俺でも良いし、ダンケでもマムでもダッドでも、友達でも恋人でも、他人でも良い。誰もがそうせずして生きられないんだ。もっと気楽で良いんだぜ。努力には継続する為の日常的な気楽さが必要なんだ。深刻な努力なんて長続きしないんだから。自分の内面的なこととなったら、一生ものだぜ」
「…」
「マシュー、人に影響されて、俺達は毎日自分らしく変わるんだ。マムが俺に舞台を教えてくれたように。ダッドが俺達に舞踏を選ばせてくれたように。グランマやグランパが好きな楽器を手に取らせてくれたように。俺がお前に影響されて、カードゲームを始めて、俺なりのデッキを組んだようにな。俺は沢山の人に影響されて、それだけ沢山の自分を見つけた。これからもそうやって、俺は俺なりに変化し続けてゆくんだ。ずーっとな。より良くしようって憧れには天井なんて無くて、いつまでも止められないんだから。大事なのは、自分から目を逸らさないこと。気楽さを維持する為に、深刻になる前によく休むこと。好きになって、楽しむこと。誰でも状況と場数が違うのを忘れないことだ。マシューが学校に行っている間、俺が舞台にいたみたいに」
その時マシューは、バートがなにを考えているのか、わかったような気がした。
学校と舞台と言う言葉が出た時、まばたきの瞬間に盗み見た彼の表情が、憂いと喜びがない交ぜになった、複雑な感情を孕んでいたからだ。
「バートにも…」
「うん?」
「バートにも、僕みたいな時期があった?」
「今もそうかな。ただ、お前と同じ悩みなんじゃない。俺には俺の状況があって、お前と同じにはならない。たとえ似通っていても、これは俺だけの大切な悩みだから、誰もが知ることは出来ても、誰にも理解出来ない。…そうだな、いいか。今から言うことは、俺の生みのマムにも、育てのマムにも、ダッドにもダンケにも写真のベッラにも言わなかったことだ。これからもお前以外のヤツに言うつもりは無い。一回だけだからよく聞いてくれ」
バートは何故だか喉から声を出すように、苦しそうに、振り絞るようにして、震える声で言った。