13くち 20
「なあマシュー、俺の話も聞いてくれるか?まずここにいる人間以外、誰もマシューじゃないんだぜ。今ここにいるのがお前で、今ここにあるのがお前の全てだ。全部が、今のお前の延長にしかならない。ここにいないお前なんかマシューじゃないだろ?今の言葉も、マシューの言葉だ。そういうところを、認めてやってくれないか?それが出来て、初めて自分をコントロール出来るようになる。俺は、そういうマシューがいたって良いと思うよ」
「……」
「そうだな、自分がどこの国に忠誠を誓うのかは確かに大事だ。基盤だからな。でも、日本人であることがお前の全てじゃない。分かるだろ?そんな、追い詰められるほど囚われ過ぎる問題じゃない」
マシューは静かに、しかし自分の今の立場がとても惨めだと痛感しているように俯いたままだ。
「次にマシューは、これまで自分のやってきたことに、後ろ向きな考えを持っているって教えてくれたな。努力には結果が伴わなくちゃ、努力にはならないとも。考え方は色々あるけれど、俺は、お前が頑張ってきたことを、努力だって認めている。でも、マシューがそうじゃないって言うなら、お前の努力はなんだか厳しいな。自分を追い詰めないよう、思い詰めないように、ちょこっとだけ奮い立たせてやる程度じゃダメか?俺にとっちゃ努力なんて、無茶せず諦めて、心身ともに健康なまま、ほど良く向き不向きを学んで、より良く出来るものなら地道にそうするってことだから、向いてないとか、挑戦するには早過ぎたと思うものは、今までいくつも途中で放り投げて来た。でなきゃ気分が落ち込んで苦しいからだ。根性論でどうにか出来るほど、俺は強い男じゃない。だから、マシューみたいな努力の考え方は、俺にはキツイ。お前もしんどそうだ」
「……」
「努力なんて終わりが見えないものだと俺は考えている。天井が無いからな。努力している経過か、努力をやめた経過しか見ることが出来ない。ある意味、その経過が結果なんだろうけど。でも、自分の個性とか、そういう哲学みたいな方向で今一定の結果を求めるのは、早過ぎないかな。もっと時間が必要だ。俺達、まだこんなに若いんだぜ?」
そっぽを向くマシューは、まつ毛を濡らしたまま、静かにバートの言葉を聞いていた。