13くち 18
「日本人になって、どう変われると思う?」
「日本人になって……なったら、僕は自分に自信が持てるはずなんだ。こんなバカみたいなことを言わなくなるし、お前にキツく当たる必要だってなくなる。僕らしくなれるはずだ」
「…そうか」
「自分がなんなのかを知って、決めたいんだ。マシューがどういう人間か、分からないから」
「アメリカ人でも、それは出来なかったのかな…」
「…他の人になら出来たかもね。でも、僕にはこの違いが必要で、だから…」
「分かってる。ダメなんだな」
マシューの言葉を引き取ると、引き取られた本人はうんうんと頷く。
頭を振ると、母親譲りの美しいブロンドの髪に絡まっていた桜が、涙のように落ちてゆく。
マシューは自分のこれまでの気持ちを言葉にすればするほど、気持ちが昂ってきたようで、語気も強くなっていった。
「どうしてダメなのかを聞きたい」
「バートがアメリカ人だから」
「俺と一緒は嫌か」
それにもマシューは頷く。
「バートと一緒じゃ僕じゃない。僕の個性じゃない。バートのものだ」
バートと同じことをしていては。
バートと同じものを選んでいては。
バートと同じ場所にいては。
バートと同じ道を歩いていては。
そこにいるのは、マシューじゃなくてバートじゃないか。
「だから違うことをしたいんだ。僕には何も無いから!自分をどう扱ったら良いのかが分からないから、マシューだけの何かを見つけて安心したい!でも、その所為で家族にまで迷惑をかけていて…」
「何も無いって、そんなわけないだろう?それに、誰も迷惑な…」
マシューの怒りに濡れた双眸がバートを睨んだ。
「無いんだよ!なにをどうすれば自分らしくなれるのかも、お前みたいにお前以上になれるのかも、ずっと悩んできて努力もしてきたのに、分からないままだ!でも、成功するまで続けることが努力なら、僕がやってきたことは無駄骨かも。僕からしたら、毎日精一杯に全力でやってきたのに、ほんの少しも変われた気がしないんだ。いつもお前の真似事をやっている気がする…。いつもお前より劣っている気がする。おもちゃを譲ってもらった時の僕から、一歩も前に進めていない。ずっとやることなすこと、兄さんだったら僕よりも上手くやれると思い込まずにはいられないんだ。誰も僕とバートを比較したりしなくても、僕は比較せずにはいられないんだ!お前とは決定的に違う何かが欲しい!マシュー・メルナード・日国の為の何かが欲しい!でも、僕の中のバートラントが、勝手にマシューを取っていく!傍にいるだけで自信が擦り減る家族関係なんて、最悪だ。こんな惨めな気持ちになるのはもう嫌だ!僕だって自分に自信を持ちたい!」
事実に対する否定など、マシューは求めていない。マシューが求めているのは、事実に対する理解だ。