13くち 11
二人はその後、繁華街を離れ、紅茶専門店で茶葉を買い求め、マシューは二十分ほど読書を楽しんだ。正しくは、"二十分しか楽しめなかった"。
バートはアメリカにいる家族へのお土産にしようと、定員に「店の商品全部一つずつください」と、ドラマ以外では聞いたことも無いような台詞を放ち、定員の目を丸くさせていたのだ。
支払いはクレジットカードで、「一括払いでよろしいでしょうか」と確認を取る定員は、バートが笑顔で頷いた後までも、物珍しそうな顔が止まらない。
一種類の茶葉が三つ入ったパックが百種類以上並ぶ店内から、店員が三人がかりで品物をかき集めて袋に詰めていた。
静かな店内で忙しなく動き回る定員たちに、バートは何度もお礼を言い、待たせたことを詫びて袋を差し出す定員にまたお礼を言って、チップで諭吉を三人寄越そうする。
「お礼です」と言いながら、財布から出した一万円札を握らせようとしてくるバートに、勤務中に会計に関与しない金銭を貰ったことがない店員たちは顔を見合わせて困っていた。一万円となると尚の事受け取れないのだろう。ドン引きしている。
バートにとって、クレジットカードは会計を済ませる代物で、現金はチップなのだ。
しかも本人は計算が苦手だから一万円だなんてバカみたいな金額を寄越そうとする。
恥ずかしくてたまらなくなり、席を立ったマシューは「ご迷惑をおかけしましたまた来ます」と捲し立てると、バートを引き摺って紅茶専門店を後にした。
端から端まで購入した紅茶の詰め合わせをアメリカに送るべく、郵便局の送り状に書き込んでいる最中、何か月ぶりか、バートはマシューにこってりと叱られていた。
「ああやって大量に品物を買う時は、事前に店側に一本連絡しておくのが筋ってもんだろ!定員さん困っていたじゃないか」
「ずぇーんずぇん考えてなかったぜ」
「偶然お客さんが少なかったから良かったけれど、バートの時間がかかる会計の為に、何人ものお客さんが長ったらしく待たされることになったら、アメリカ人は迷惑なヤツらだって思われるぞ。それに、店側はあらゆる人に商品を売りたいのに、一人であんなに購入したら問題だって出てくるかもしれないだろ。店のことも考えて商品を買えよ。自分だけ満足出来ればそれで良いのか?他国に行く時は常に、その国の代表として行くような高い意識を持つべきだ!他国では一人の民が一つの国の顔になるんだからな!バートの所為で母さんたちまで迷惑なヤツらだって思われるのは心外だ。旅でも恥はかき捨てるな!旅だからこそ模範的な行動を心がけろよ!」
チップについても散々嫌になるほど聞かされた。
バートはしょんぼりして、もっと考えてから行動することを誓ったけれど、果たしていつまで守られるのか、心配は絶えそうにない。
マシューはカリカリしながら、備え付けの鉛筆でアメリカの住所を送り状にカリカリ書き込み、梱包した荷物を窓口まで持って行った。