13くち 10
「んー…。ザヴィシャがエースだった頃なら使えたカードだけど、今はツァーリがエースだからなあ…。お前はどうだ?」
「魔女っ娘マリーの二枚目が来た。ブラッディマリーを出陣させやすくなる。感激」
二人の反応は真逆だ。
その後も次々と一パック五枚入りの開封式を行い、マシューとバートはいらないカードはコレクションに加えるか、ダンケに送りつけて新しくデッキ構築させてやろうと考えた。
開封式が終わると同時に商品がテーブルに運ばれてきて、定員にお礼を言ってからハンバーガーの包装紙を剥いて噛り付く。
「ところでさ」
ハンバーガーの一口目を咀嚼して、サラダにドレッシングをかけながらマシューは言う。
「僕は卒業したら一旦アメリカに戻るけど」
「学校の話は今日は無しだぞ。休むんだからな」
「違うそうじゃなくてさ、僕は卒業したら家族会議の為にアメリカに一度戻るけど、その時はバートも一緒でしょ」
噛り付いたハンバーガーの横からレタスがはみ出ているのを押し戻して、バートも言う。
「ああそうだな」
「その席で、僕が日本にこのまま居続けるって言ったらどうするの。また日本で居候するわけ?」
「お前がまた連絡を一切寄越さないで何年も顔を見せに来ないような薄情なことをしたら、そうするな」
「でもバートは仕事があるだろ。あんまり休んでばっかりいると仕事が来なくなるぞ」
「その時はその時で良いんじゃないか?家族に勝る仕事無しだ。別のことでもするさ。もっと家族を優先出来る仕事」
「どんな?」
「羊飼いとか」
マシューが咳き込んだ。
ちょうど口になにも入っていなかったから、食べ物を吹き出さずに済んだ。
「こら、羊飼いを馬鹿にするな。立派な仕事だぞ」
「してないよ。ただ、バートらしいなって思ってさ」
舞台の上がダメになったとしても、別の場所で違うやり方で生きられる。
思いつきで口にした職業だとしても、なんとなくバートだったらそれをやり遂げてしまいそうな気がする。
マシューは笑いながらハンバーガーをまた一口食べた。
「じゃあ、ブロードウェイの役者から、ペットの犬とタコと一緒に羊飼いに鞍替えしたら、ハガキ送れよ」
「いいぜ。アメリカに来たら羊のミルクでなにか作ってやるよ。羊乳はタンパク質が多く摂れるからな」
二人は現実になりそうもない将来の話をして、妄想が膨らみ過ぎると、ハンバーガーを食べる手を止めてしばらく笑っていた。
マシューは最後まで、「D.C.ブロマンス」の続編である「N.Y.ブロマンス」の話や「沢山のオファー」の話はしなかった。
何故だかは分からなかったけれど、きっとネガティブな感情であることに間違いない。