13くち 8
「ちょっと、バート」「よし、食器の片付けも終わったし、出掛けるか?マシュー」
調度言葉が被り、バートはマシューの言葉に気付いていないようだった。
マシューは再度、件の見出しを見直すも、もうそれを言う気にはならなくて、シャットダウンの操作をした。
バートは濡れた手をタオルで拭きながらやってきて、「なにを見ているんだ?」と聞くが、既に画面は真っ暗で、なにを想像したのか、バートはいつもと違う調子の悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「おっと、プライバシーは守らなきゃな。履歴は残さない方が良いぞ。うっかり見ちゃうかもしれないからな」
「僕はそれほど単純な男じゃない」
「そうかそうか」
信じていないようだ。
疑いを晴らそうとしないことは嘘を吐いていることと同じ。とは言うが、"そういうサイト"を覗いていると勘違いされても問題無い為、ここは嘘を吐いたままにしておく。
バートの名前で検索をかけていたと知られるより、アダルトサイトを見ていたと思われた方がまだマシだ。
「ところでどうする。出掛けないか?」
「うん。そうだね。洗濯用洗剤を買う用事があるし」
「いけね、食器用洗剤もだ」
「メモしろメモ」
「あいあい」
マシューが着るものを箪笥とクローゼットから探している間に、バートは固定電話の横で買い物メモを書き込む。
着替え終わる頃には書き終り、覗き込むと文字はひらがなで書かれていた。それもへたくその。ひじきを繋ぎ合わせたみたいだ。
バートが着替えている間に、マシューはじょうろに水を溜めて、屋上で春風に吹かれているプランターの花や、来年に贈り物にする予定のガーベラの鉢植えにも水をやる。
ついでに伸びてきた雑草を引っこ抜いた。
アメリカの思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイストである、ラルフ・ワルド・エマーソン曰く、「雑草とは、その美点がまだ発見されていない植物のことである」。
マシューも未だ雑草の美点が分からない。
どこからともなくうじゃうじゃと生えてくる。抜いても駆除してもキリが無い。
お前を植えた覚えは無いぞ、と毎度の如く思う。
屋上からの階段を下りていると、着替えを終えたバートが玄関に鍵をかけている最中で、足音を聞きつけてこちらを振り向いた。
「今日の服、ダサくはないだろ?」
いつだかのことを根に持っているのか、両手を広げて服を見せびらかしてきた。
マシューは「ソウダネー」と当時のバートよりも片言の日本語で返事をして、更に階段を下りて行った。