13くち 4
…
翌日の朝、いつもはバートより早くに起きて行動を開始しているマシューは、午前九時になるまで目覚めなかった。
バートは七時に起きて、スキンコンディショニングとストレッチと洗濯と朝食の準備を済ませ、マシューが起きるまでカードゲームの調整をして、彼が起きるのを気長に待っていた。
新しく加えた"星守の善き王-スタークラスター・ツァーリ-"が、バートの新しい「ユニバースデッキ」のエースソルジャーだ。
そのツァーリをサポートするカードを、マシューのコレクションと自分で買ったパックから選んでデッキに加えていると、布団が大きく擦れる音が聞こえて振り返る。
寝癖を立たせた髪の毛をして、のそりとマシューが起き上がった。
しばらくまどろんでから目覚まし時計を見ると、この世の終わりを迎えたかのように壮絶な表情を浮かべた。
「マシューおはよう」
しかし、すぐに、テーブルに並んでいる朝食と、呑気にカードを床に並べて笑んでいるバートを見て、今日は休むと言う話を思い出したようだ。
寝癖と同じくらいに逆立っていた髪の毛はへたれ、いつも聞いているそれとは違う安堵の溜息を零していた。
「ああ、おはよう」
そうしてようやく返事をしてくれた。
しょぼくれた目を擦ってから手で抑え、俯くマシューの姿を見てこう思った。
"二日酔いをマムに叱られている時のダッドみたいだ"
マシューが本格的に動き出したのは、それから二十分後だった。
なかなか動く気になれなかったようで、せっかく上半身を起こしたと言うのにまた枕に頭を戻して、「カーテンを開けて」とバートを世話係のように扱った。
バートは文句ひとつ言わず、「いいぜ」とカーテンを開けて、「ほら、良い天気だ」と窓も開けて、網戸にした。
春風が心地良くて、マシューは二度寝しそうになるのを堪えた。
堪える為に、バートに声をかけた。
「なんだか、ずっとこうやって生活していたいや」
「いいんじゃないか」
「でも、現実的じゃない。明日からはいつも通りに過ごさなきゃ。だらけていられない」
「明日のことなんていいだろ。今は今日だぜ」
「毎日がエブリデイみたいな言葉だな」
「そんな難しいこと言ってないで」
「超簡単」
マシューは枕を抱えて、共演前によく見せてくれた、バートを小馬鹿にするようなあの笑顔を少しだけ見せた。
それが嬉しくて、バートの笑顔もより深まった。