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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
12くち「開幕!汚名なるウェル・メイド・プレイ!!」
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12くち 13

 

 最後に、役者や裏方陣の志士頭学園高等部演劇部の部員たちが登壇し、急遽出演出来なくなった光五雨(こうごう)先輩のことと、その代役のバートも含めた紹介が行われ、全員で頭を下げると、会場はこれまで聞いたこともない拍手喝采に包まれた。

 バートとマシューは上の空と言った顔で、他人事のようにお辞儀をしていた。


 控え室に戻ると、部員たちは盛り上がり、マシューもそこに加わって愛想を振りまき、舞台中の失礼な態度を詫びていた。

 部員たちはバートにも輪の中に加わってほしそうにしていたが、その彼は化粧を落とし私服に着替えて、遠目に演劇部を見守ることに徹していた。

 花美先輩が「話しませんか」と誘っても、「台本の言葉はマシューから教わっただけで、日本語はほとんど分からない」と突っぱねていた。


 話し合いが落ち着く頃に、バートはマシューを英語で呼び出した。

 日本語はほとんど分からない、だなんて真実半分嘘半分を並べた手前、英語を使って説得力を持たせるつもりのようだ。

 最近では日本語での会話が増えていた為、英語で話しかけられるのはなんだか違和感があった。



「Is school over?(もう学校はおしまいか?)」

「Yes. I'm done.(うん。終わったよ)」



 今日は公演だけだし。

 ならば、と言うようにバートは車の鍵を見せて、「帰りたい」と意思表示をしてきた。

 マシューもそろそろ良い子ちゃんぶるのは疲れてきたところだったので、皆を振り返ると、「兄さんは騒ぎを起こしたくないから早く帰りたいそうだ。僕も送ってやらなくちゃ」と言い訳を並べて、二人して大して上手くもない愛想笑いを浮かべて、レンタカーの許まで向かった。

 送ってやらなくちゃ、なんて言ったけれど、送られるのはマシューの方だった。



 アパートに帰るや、バートはコロッと態度を変えて「夕飯は中華が食べたいぜー!回鍋肉(ほいこーろー)!」と言って冷蔵庫の中身を確認し始める。

 マシューは泣くわ怒鳴るわとネガティブ感情の権化・カフカを演じ切って疲れてしまい、布団も敷かずに床の上で寝転がった。

 流れる雲を見ていると、いつだかのバートが、何故ここで昼寝をしていたのか分かる気がした。



「なあマシュー、回鍋肉で良いよな。豚肉があるし」

「……」



 予想と違った。期待通りでなかった。

 思った以上の芝居が出来たのに、こんなはずではなかったと、カフカが未だ叫んでいるような気がしてならない。

 内に眠る可能性など、一ミリメートルも目を開けた兆しは無い。

 九畳一間のアパートのフローリングの上で、窓の向こうで高くまで昇る太陽を見上げているだけだ。

 自信は一ミリグラムも湧き出てこない。

 次期部長に選ばれて既に三か月以上も経つのに、その決意が固まるのも今日だと思っていたのに、果たして自分に務まるのだろうかと、むしろ不安が募るばかり。

 心臓は弱々しく、ただ早く鳴り続けている。


 流し忘れたのか、最後の一粒が頬を伝っていった。

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