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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
12くち「開幕!汚名なるウェル・メイド・プレイ!!」
152/270

12くち 12

 

 マシューは自分の出番となると、今までの稽古で一度もそんな演技はしなかったのに、泣いていた。

 胸を掻きむしって、自らが矮小な人間でないことを証明するべく、両手を大きく広げて見せ、何度も何度も考察と練習を重ねてきた台詞を放つ。



「私は、……特別なんだぞ。私を見ろ!私こそを!」



 声が()れるほど、全力だと自負出来るほどの心からの叫びであったが、同じ舞台に立つからこそ分かる。



「お前に私の苦しみが分かってたまるか!馬鹿にするな!私を下に見るな!お前なんか!お前なんかに!」


 敵わない。


「私はお前達とは違うんだ!比類のない才能を持ち、実力を持ち、未だ可能性を隠し持っている!役の為なら自分を捨ててやろう!いくらでも!お前なんかに主演が務まってたまるか!私の役だ!私の場所だ!」


 足りない。


「もう一度舞台に立ちたい!あの場所が恋しくてたまらない!光を受ける為に生まれてきた!私にはあの場所しかないのに!なのに、どうしてこんな手段を取らなければあの場所に立てないんだ!自分が憎い!憎い!憎い!」


 届かない。


「だれでもかまわない」


 バートラントを超えられない。


挿絵(By みてみん)


「わたしをみてくれ」


 "どんなに私(僕)が大声で泣き喚いたって、物言わぬ彼の微笑みに、世界は注目するのかもしれない。"



 カフカの孤独が、今この時ようやく理解出来た気がした。

 演技なんかではない。本気の涙が舞台の上で弾けた。


 暗転し、一度舞台袖に戻ると、称賛の声をかけてくる他の部員たちを無視して、涙を拭き化粧を直し声を整えてからもう一度控えた。

 その隣に、バートが並ぶ。


挿絵(By みてみん)


 二人とも無言だった。

 見つめるのは舞台の上だけで、出番が来ると二人は同時に進み出た。


 後に花美先輩が言うには、この終盤の芝居で、マシューとバートは喧嘩をしているように見えたらしい。

 カフカとロマンが傷つき合ったお互いを慰め合い、立ち直る為の穏やかなシーンが続く中で、主演と準主演の役者二人は、その芝居の実力で殴り合いをしているようであったと語った。

 翌週の学校新聞でも似たようなことが書かれていたけれど、マシューは思う。

 ボコボコに打ちのめされただけであったと。

 殴り合いなんかじゃない。ひたすらタコ殴りにされただけだ。

 同じ舞台に立ち、バートラントを前にしていないから分からないのだ。


 何者をも懐に迎え入れるのに、しかし圧倒的な力の差と言う壁を感じる。

 その壁の向こうへ行きたい。

 けれど、その向こうへ至ることは到底出来ないと、ロマンの微笑みを浮かべるバートを前にして、カフカの愁眉(しゅうび)が崩れてしまうマシューには分かる。

 その壁の向こうへ至れないのではあれば、果たしてどこへ行けるのだろう。


 舞台の上で、マシューは最後に、必死に取り繕ったカフカを振り絞るようにして演じ切る。



「ならば、カフカ・カートランドはもう一度、光の下を歩めるだろう。華麗なるウェル・メイド・プレイ。私たちの舞台を」



 会場に拍手が響き渡り、四十分間の舞台は幕を下ろした。

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