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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
12くち「開幕!汚名なるウェル・メイド・プレイ!!」
150/270

12くち 10

 

 …




 バートはレンタカーですぐに志士頭学園高等部にやってきた。十分もしなかっただろう。

 彼が控え室に入るや、その場の数人、特に花美先輩は目を丸くしてバートとマシューを交互に見つめた。

 垂れに垂れた目をまん丸にして見開いている。こんな先輩の顔は初めて見たくらいだ。



「バートラントだ…。嘘だ。月間ファッショニスタで表紙を飾っていた男だ」



 彼女もファッション雑誌など読むのかと失礼ながらもそう思った。

 数人がミーハー気分で握手を求めようと駆け寄るも、バートは「家族の為に来たんだ」と言ってそれらを無視してマシューの許へ歩み寄る。

 化粧台前の椅子に座っているマシューの前で(ひざまず)いて見上げる。



「頭に入っているのは台詞だけだ。どう芝居するかは俺の感性次第で問題ないか?」


「兄さんならどうにでも出来るでしょ。今から一度だけ、駆け足でリハーサルをするけれど、台詞と大道具で状況を考えて思うままに動いていい。任せるよ。僕はそれに合わせる」


「分かった」



 そう言ってすぐに動き出すと思ったけれど、バートはそのままの姿勢でマシューの顔色を伺っていた。



「本当にお前の本心か?」

「なにが」

「言われなくちゃ、俺は馬鹿だから分からないぞ」

「お前は学は無いけど馬鹿じゃないよ、バーカラント」



 エメラルドグリーンの瞳がなにかを訴えかけようと、マシューのベビーブルーの瞳を捉える。

 それこそ、バートがなにを言いたいのか、マシューだって言われなければ分からなかった。



「本心だよ、全部」



 全部嘘さ。

 生まれてから本当のことなんて、一度も。覚えが無い。

 親に、兄弟に、友達に、他人に、世間に、社会に、自分を見てと言うものの、なんにも無い自分を見せびらかすのが怖くて、代役を立たせる臆病者の大嘘吐きだ。


 衣装が少しキツイと言うバートを、一度キリだからと(なだ)めてリハーサルを行った。

 時間が無い為、リハーサルは物語のさわりの部分(重要なシーン)のみを確認して、あとはぶっつけ本番で挑むこととなった。

 が、問題は無さそうだ。

 天性の素質であり、ブロードウェイの舞台や、モデルやドラマの撮影で(つちか)われてきた本場の感受性と表現力が、物語の台詞よりも雄弁にロマン・ハースを物語っていた。

 花美先輩が呆けた様子で口を閉め忘れている姿も、これも初めて見た。

 他の部員も文句のつけどころが無いと拍手を送っていたけれど、バートはやめろと言わんばかりに首を振り、本番まで控室に籠り、自分の動きを何度も確認し直していた。


 場は完全に持ち直していた。

 日国兄弟を置き去りにして。

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