12くち 1
12くち「開幕!汚名なるウェル・メイド・プレイ!!」
アイルランドの詩人、作家である、オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド曰く、「あなたが自分だと信じている人間は他人である。思想は誰かの意見であり、生活は模倣であり、情熱だと思っているそれは、借り物だ」
マシューとバートにとって、なにかとイベントの多い金曜日のことだった。
日本に冬が到来し、雪がしんしんと降り積もる日々が続いていた。
街路樹は禿げ上がり、葉の代わりに雪化粧が施され、街がいつもより静かになった気がする。
しかし晴れた日は空の青さが際立ち、富士山が一層美しく見える季節であると、ベランダで年越しをしたバートは、隣に座って雑煮を啜るマシューから教わった。
近くの神社や遠くの寺からは、鐘をついたり鈴を鳴らす音が響き、外に出ると、家族連れで雪道に足跡を残してゆく人々がバートの視界をちらついたのは、つい最近の事。
初めての日本での年越しだった。
年越しだけではなく、日本でのクリスマスもバートにとっては初めてだった。
アメリカにいる母からクリスマスカードが届き、バート来日の旨が書かれているのを知ると、バートは「マム、怒っていないか?」とカードを読むマシューに聞いてきた。
「マシューが許すのであれば構いません」と書かれたカードを音読してやると、大袈裟に胸を撫で下ろして、バートは返事の手紙に自分も筆を立てた。
バートにとってもマシューにとっても、お互いがいるクリスマスを送るのは、日本では初めてのことだった。
「久しぶりに、サンタとトナカイ宛にクッキーやニンジンでも用意するか?」とバートが言うと、もうそんな歳ではないとマシューは笑っていた。
「昔のクリスマスに、夜中にトイレで起きたら、自分たちがサンタ宛に用意したクッキーを父親が夜食につまんでいたところを目撃して、一時期は父親の職業がサンタであることを本気で疑った。そしてそれは世の真実であった」と言う昔話を掘り起こして、二人はクリスマスの夕食を囲っていた。卓にはピザとビーフが並んだ。ケーキはマシューだけが食べていた。
日本ではキリストが降誕した日を過ぎるや、さっさとツリーが下げられてしまうのがバートには不思議で、彼の提案で、現在もこのアパートの一室では、手のひらサイズの小さなツリーが、一月の中旬に差し掛かる今もベラーノの写真の隣で電飾を輝かせている。