11くち 9
どうしてお前はそうなんだ。周りをもっと見ろ。そのナリでよくも俺と同じ屋根の下で暮らせるな。
お前こそもっと自分を見てみろよ。どんなに一流で高尚な装いをしても、中身はスッカラカンで低俗な三流のくせに。
「でも分かり合える。ムカつくシェアパートナーから離れる為に、何度も別のシェアハウスに引っ越してみたけれど、そこの住人とも上手くいかなくて戻ってきてしまうんだ。二人とも性格がねじ曲がっているからな。二人は嫌でもお互いを理解せざるを得ない」
「上手く行かないのは分かるけど、それで元いたところに戻るの?」
「戻ってきてしまうのには理由がある。お互い、初めて会った時は物静かなパートナーと気の合う友人になれると思っていたから、うっかり自分のことを話し過ぎた。これ以上ない理解者だったんだよ。趣味の読書やボトルシップを作っている最中に、床を踏み抜きそうなダンスを踊るパートナーじゃないって言うのは、二人にとってとても重要なことだったんだ。それに、移住に失敗したパートナーがうんざりした顔で帰って来て、それを見て"それ見たことか。ざまあみろ、お前はどこにも適合出来ないんだ"と馬鹿にしてやるのも楽しかったのさ。そうして、二人は少しずつ絆を深めて、お互いの問題に向き合っていくんだ。お互いのピンチには一番に駆けつけたし、好機にはそっと身を引いて、後から皮肉を並べてやった。好きなものの共通点より嫌いなものの共通点の方が多いから、両親がいたら咎められるような口汚い夜を何度も過ごした」
「最後はどうなるの」
「エヴァンは良い就職先が見つかったから、ニューヨークに引っ越す。ゼップも大学進学が決まったから、大学の寮に住むことを決めた。二人は握手をして別れるんだ。ハグなんてしない。涙だって流さない。この二人の物語にお涙頂戴なんて誰も求めていないからな。連絡先を教え合うけれど、"お前に電話をかけることなんて、心配性の親に友達がいることを見せかける時だけだろうな"と言い合って、笑って別れるのさ。離れ離れになっても二人はちっとも寂しくないんだ。お互いが見つけてくれた自分がここにいるのなら、ってエンディングだ」
バートは撮影の時でも、いや、脚本を皆で考えている時のことでも考えていたのだろうか。
朗らかに笑んで、ハンドジェスチャーを加えながら語るその姿は、寝る前の子供に物語を読んで聞かせる親のようだ。
マシューは雨が止んだことにも気がつかないくらいに、聞き入っていた。