11くち 8
…
「"D.C.ブロマンス"は、メトロセクシャルとレトロセクシャルの同性コンビがシェアハウスで生活するストーリーなんだ。1シーズンに同性二人。年齢に上限を設けないでドラマを作る。だからお爺ちゃん同士とか、未成年と成人の女同士なんて言うのもある」
メトロセクシャルとは、美意識が高く、自身に対する時間や金銭の投資を惜しまない男性のこと。
レトロセクシャルはその逆で、ありとあらゆる美意識に振り回されず、拘りも関心も寄せないような男性のこと。
「D.C.ブロマンス」「N.Y.ウーマンス」では女性も含めた言葉として扱われていた。
ちなみに、ブロマンスは男性の性的でない親密な関係を意味し、ウーマンスはブロマンスの女性版である。
「"そういう趣旨"で作られているわけではないみたいだが、時々あるみたいだぜ。キャストと脚本家でストーリーを練るから、マジで馬が合っちゃったキャストは、自分たちが結ばれるエンディングを作って、そのままドラマ内で結婚したりもする。ドラマ外で離婚した人もいたけど」
「へえ。バートはどんなだった?」
「俺はメトロセクシャル一派のエヴァン=ルイス・ブラウンって役。相棒はノア・クインって言ったら、分かるか?」
「ああ彼も知ってる。この間観た映画にいたよ。低予算だし脚本は穴だらけで最低だったけど、役者の演技だけは最高でさ」
「そのノア・クインはセバスチャン・ラダーって名前で、オシャレな俺とは逆のレトロセクシャル一派」
「バートがオシャレな格好なんて想像つかないや」
普段がティーシャツとデニムのジーンズ、カラーシャツとチノパンツ、ポロシャツにスキニーみたいな装いばかりだし。
「結構キマッてたんだぜ。ウエスト絞ったりもしたしな。それで、一つのシーズンを、好きな登場キャラクターの名前で呼ぶんだ。たとえばエヴァンが好きなら、エヴァンシーズンってファンは言う。ゼップ(セバスチャンの愛称)が好きならゼップシーズンって呼ぶ。二人とも好きなら、セヴァンって呼ぶ人もいたな」
「車みたいな名前」
「カッコイイだろ?それで、セヴァンシーズンを制作するに当たって、俺とノアには恋人になるほど運命的なものは無かったけど、友達としての方向性は驚くほど合致していたんだ」
「どんな?」
「優しくて爽やかな気持ちになれるような話にしようって。劇的にしようとしなくて良い。二人の人間がいつも通りに過ごして、少しずつお互いを知りながら、自分のことも分かっていくのさ」
「それで?」
「ノア演じるゼップがオシャレに関心が無いのには理由があるんだ。性的なトラウマってヤツだ。それをエヴァンが解消してやろうとする。逆に、俺演じるエヴァンは自分の外見ばかりで中身が伴わない。人目が気になって仕様が無くて、人付き合いに酷く疲れているんだ。着飾ることに心血を注ぐばっかりで、冷血漢になってしまったのさ。ゼップはそんなエヴァンの問題を解消してやろうとする。でも、二人とも最初はすれ違いばかりで、毎日小競り合いだ」