11くち 6
「なあ、せっかくの休みなんだぜ?体調が悪いって言うのもあるけどさ、話をしようぜ」
「話って言ったって…」
「今の本のこととかさ」
「これはいいよ。話すようなことじゃないし」
「俺は知りたいよ」
………。
「演劇部の台本」
「なにか役をやるのか?」
「…準主演」
「凄いじゃないか!どんな役柄なんだ?」
バートは嬉々とした表情で質問を繰り返した。
マシューはうんざりしつつも、それらの質問に当たり障りのない言葉で答えて、都合が悪い方向に話が進まないよう努めた。
努めたのだが。
「よし、一人じゃ練習出来ないだろ、俺が付き合おうか」
ほら来たいらないお節介。
「いい。やめろ」
「でも公演は来年すぐだろ?稽古はいつだって大事だぜ」
見せてみろ、とマシューの手にある台本を取ろうとするバートの手を叩く。
「放っておけよ。これはアマチュアの俺らが自分たちで作る舞台なの。プロのお前が介入するようなもんじゃないの」
「プロもアマも関係ないだろ。役者ってことに変わりないんだから」
マシューはバートに関わってほしくなかった。
プロの彼と読み合わせをすればきっと嫌でも痛感する。
彼と自分の力の差を見せつけられて、楽しかった部活の間ですら自信が無くなってしまうに違いない。どこにもかしこにも「バートの方が上手い」だなんて彼の影がちらつくのは、もう嫌だ。
マシューは熱くならないように、自分を鎮めるように、なるべく優しく声を絞った。
「なあバート、これは演劇部の為の台本なんだ。家族だとしても部外者に見せるわけにはいかない。分かるだろ?社外秘みたいなものなんだ。お前だって、自分の台本を舞台に関係ない人に見せないはずだ」
そう言われれば理解出来たようで、バートはまだ何か言いたそうだったけれど、とりあえず納得したと頷いた。
これ以上彼がなにか言い出す前に、マシューは台本を横に避けて、話がしたいと言うバートの提案に乗ってやることにした。
そうすれば、都合の悪いことはされないだろうから。
「そんなことより、バートの舞台はどんなことをやっていたのさ」
「あ、そんなことよりって」
「それ今度言ったらお前の金でアメリカ行きの航空券買ってくるからな」
「オッケー」
気を取り直した。
バートは武勇伝を語る父のように、顎に手を添えて情景を思い出していた。