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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
11くち「風邪っぴきアンビヴァレンス!にぎって!むすんで!看病だ!!」
129/270

11くち 4

 

 残した母の料理は父が平らげて、翌日風邪が父に感染した。母はマシューに出したものと同じメニューを出していたけれど、父は美味い美味いと嬉しそうに、やはり平らげた。

 後日、父から聞かされたのであろう母は、マシューに「言ってくれたらよかったのに」と申し訳なさそうにして、今度からはお粥とお茶を出すと言った。

 マシューは、自分が母の料理にケチをつけたような気になり、その言葉に首を縦にも横にも触れなかった。自分で自分にショックを受けて、ただ母に謝りたかった。



「そうなのか、俺は風邪の時、いつもこんな感じのものを食べていたもんだから。…日本はそうなんだな」


「まあ、うん」


「あー…これは俺が食べよう。新しく作る。えっと、…お粥って…よくわからないけど」


「ミルヒライスの親戚みたいな感じだよ。米を水に浸して煮るんだ。そこに塩とか梅干しとか卵とかかけるだけ」


「果物とか、シナモンはかけないのか?」


「デザートじゃないから」



 バートは珍しく気まずそうにして、いそいそと料理をマシューの前から避けて、テーブルの端に追いやる。

 今この瞬間にも冷めてゆく料理と、バートの残念そうな顔のダブルパンチに、食べないことが忍びない。



「いや、ごめんなバート。いいんだよ。お粥は夜に作ってもらえるかな。昼はこれを食べよう」


「そうか?…でも、日本人には、こういう食べ物は胃に重いんだろ?」


「目の前で可哀相な顔をされると気が重いんだよ。いいから食べよう」



 バートの顔はさっきよりマシになった。

 食器を持って戻ってきて、頻繁に青い顔をしてお茶を寄越せと催促するマシューと昼食を囲った。

 食べ終わる頃には、マシューは「口の中も腹の中も油っこい」とお茶を一リットルも飲んでいた。バートはオレンジジュースを飲んでげっぷをして満足していた。



 昼食の後は、バートは食器の片付けや、いつの間に買ったのか日本語学習の本と、付録のリスニングCDをパソコンのCDドライブに挿入して勉強を始める。

 思い出したようにストレッチをして体をほぐしては、「雨はまだ止みそうにないぞ」と、屋上から玄関前の廊下に濡れないよう移動させてきた、マシューの鉢植えの花たちに話しかけていた。ベッラの写真にも話しかけていた。

 マシューはベランダを打つ雨音を聞きながら、うつ伏せになって勉強をしている。

 バートは「休みなんだから今日くらい勉強を休めば良いのに」と言っていたけれど、今勉強をしなかったことで将来後悔するのはバートではなく自分だ。「うるさい」の一言で捻じ伏せた。

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