11くち 2
「じゃあ、ダン兄は"アリストクラート・デッキ"を組んだ時、どう考えてカードを選んだ?」
「没落貴族による没落貴族の為の再興デッキ。他のソルジャーは全部囮か供物。よそ見しないでエースソルジャーに勝敗の全てを賭ける」
「でもそれってゾールを出陣出来なかったり倒されたら」
「そうなったら降伏する。エースがいないんだから当然だよ」
迷いなく言いながら、ダンケは使い古しているものの、カードスリーブに入れて保存状態が良いままの「没落貴族-ゾール-」「王位を継ぐ公爵-ゾール-」「聖油王-ゾール-」の三枚を、新しいスリーブに入れ直していた。
そういえば、三戦した内の一戦だけ、ダンケが負けた。
プレイヤー自身の体力であるOLが尽きて負けたわけではなく、通常のバトルで「聖油王-ゾール-」が倒されると、すぐに降伏宣言してきたのだ。
ゾールを再び場に復活させる手段が尽きたようだった。
「"あれもこれも"なんて、勝つために全賭けでちまちま稼ぐより、負けても良いから一点賭けの大博打に出たい性格なんだよね。エースがいるならそいつこそを第一に考えたい。マシューもマリー以外は切り捨てな」
「どれも愛着あるんだよなあ…」
「じゃあ事故起こして負けな。愛着とか言って、優柔不断なだけでしょ」
「ひっでぇ」
「使うかもしれない、必要になるかも、なんて優柔不断さが負けを招いたんだ。過去は誠実なのよ。それに、デッキから外すだけでしょ。捨てるわけでもあるまいし。いつもみたいにコレクションすればいいじゃない。なにを意地になっているんだか」
「ダン兄ってどうしていつもそう喧嘩腰なのさ」
「悪いねペイントボッドなものだから。没落貴族のイングリスなものだから」
「ほらー、お前たちぃ」
そうこうダンケと話し込んでいると、マシューが座り込んでいる布団に、バートがテーブルを寄せてくる。
更に、湯気を立てる小鍋を持ってやって来た。
「俺が作っためちゃうまランチが不味くなるから、今から行儀の悪い口を良い口にしろ」
ダンケはバートを画面の端に確認するや、「またね」と言って通話アプリケーションを切ってしまう。
親の前で悪事を働いた泥だらけの手を背に隠す、悪戯小僧のような素早さだった。
マシューは手に持つデッキをホルダーに収めて、テーブルに体を向ける。