11くち 1
11くち「風邪っぴきアンビヴァレンス!にぎって!むすんで!看病だ!!」
秋。
バートが来てから十八週目の金曜日となった。四か月目だ。
「サポートカード"墓場と揺り籠のすり替え"の効果で、戦場にいるソルジャーを一体退陣させ、代わりに、墓所に退陣していた"王位を継ぐ公爵-ゾール-"を復活。更にもう一枚"王位継承"の発動代償として、戦場に存在する残り全ソルジャーを退陣させ、ゾール公爵を"聖油王-ゾール-"へパワーアップ。貴族ソルジャーのみに装備可能なサポートカード"側室"を装備。正妻以外と肉体関係を持ったゾール帝王は、攻撃力が800ポイント上昇する。更にサポートカード"オーバードーズ"を発動。俺のOLを半分捧げることで、それをゾール帝王の攻撃力に加算。発動代償として、このターンの終了と同時に帝王は退陣しなければならず、俺のOLも削られる。"聖油王-ゾール-"で、マシューに襲撃」
「んんんん……ダメだ負けた」
マシューは布団の上で上半身を起こし、足下にパソコンとカードゲームを置き、通話アプリケーションを介して、ダンケと三度目のバトルをしていた。
サポートとジャマーばかりで、出陣させられるソルジャーがいない。と言う手札事故を起こしたマシューは、二度目の敗北をつきつけられる。
布団の上に広げていたカードを集めて手元に寄せた。
十年以上かけて構築してきたデッキで、大切な一枚達が合わさって出来た宝物だ。
「やっぱり初夏に組んでいたデッキが一番良かったのかもなあ。戻そうかな」
「でも、今のデッキはエースソルジャーの"マリー"を通常デッキでも出陣させやすいデッキなんでしょ。今の方向性のままカードを減らして再構築しなよ」
「でも、どのカードも捨てがたいんだよなあ…。手札事故が起こるんだけどさ。ダン兄はこういう時どうしてる?」
今日もバートの家を管理すると言う名目で、彼の家の物を自由に使って生活するダンケは、紙の束や栞の挟まった読みかけの本や洗われていない汚れた食器が山積みになっているテーブルの上から、広げていたカードを集めて、改めて自分のデッキを見つめた。
「悩まないね。初めてデッキを組んだ時から、一度も再構築したことが無いから。このカードゲームは、サー(日国家の父)からのお下がりでなんとなく持っているだけだし」
言われてみれば、ダンケと今まで何度もバトルをしてきたけれど、彼のデッキから「目新しい」と感じるカードは一枚も見たことが無い。
今でも新しいカードが続々と増え続けているのに、十年前に発売されたカードを使い続けているのは、ダンケがこのカードゲームのファンではないからだ。
捨てられずに所持し続けていたら、対戦相手をしてほしいマシューが度々バトルを申し込んでくるからプレイをしているだけで、好んでしているわけではない。