10くち 26
「彼女を探してくるよ。一緒に食べたいんだ」
「先約じゃなかったのか?……と言うか、女子トイレに籠っていたらどうすんのさ」
「……男子トイレに行ってくれていたら助かるんだけどなあ」
「分かった。女子が男子トイレにいることを望む日国くんには見習うべきところがないって母ちゃんに言うわ」
彼女を探していたら、いつの間にか昼休憩は終わってしまった。
それを知らせるベルが鳴り、マシューは手元の巾着に入った弁当箱を見て、廊下に立ち尽くした。
「次の休み時間に食べよう」
教室に戻ろうとしたところで、
「日国くんどうしたの」
と背後から彼女の声がして振り返る。
弁当箱を持った彼女がそこにいる。
「……ああ…いや、ご飯、キミと一緒に食べたくて」
「……」
今度は彼女が言葉を失う番だった。
今朝から感じていたけれど、学校生活において、彼女とマシューは足並みが揃わないようだ。
彼女はとんでもないことをしてしまったと眉間に皺を寄せるほど困った顔をした。
「ご、ごめん、私…お手洗いで食べていて…」
やっぱり便所飯だった。
素直に申し出た。
「だって、……どうせまた一人になるから」
「僕がいるって言ったろ?」
「そこまで気を遣ってもらえるとは思っていなくて…。日国くんには日国くんの友達がいるし…」
「気遣うとかじゃなくて、単純に、いつも紅茶を飲んでいたみたいに一緒に食べたかっただけだよ。キミだって日国くんの友達じゃない」
「……そんな。…ごめんなさい」
「いや、もっとちゃんと先約を入れるべきだった。と言うわけで、その内、気が向いた時にでも、僕の友達と昼休憩を過ごしてみない?いつもだいたい四人か六人くらいいるんだけど、嫌じゃなければどう?」
「……しばらくは、大勢は…」
「分かった。じゃあ、しばらくは二人で」
「うん」
"しばらく"と言うのはどれくらいだろう。
一か月くらいかしら。それとも二か月は必要なのか。
そう考えて、勉学に部活にと励んでいたけれど、結果として、彼女は一週間後にはマシュー含めた男子生徒らに交じって昼食を囲っていた。
男子制服の中に女子制服が混じっていて、傍から見れば彼女は似つかわしくないように思えたのかもしれないが、その輪の中で彼女は確かに居場所を確立していた。
怯えながら、表情を伺いながらだけれど、好きなユニットの話になると、食べることも忘れて懸命に言葉を選ぶ彼女の話に、皆が耳を傾けて、ひとりは「自分もそのユニットのファンだ」とノリだすくらいだった。
彼女は人の話もよく聞いた。マシュー達が好きなカードゲームを見せられると、進んで計算係を引き受けて、一緒に戦況を見守った。