10くち 25
…
昼休憩の頃、彼女の姿が消えていた。
今さっきまで自分の席に座ってぐったりしていたのに、もしかして帰ったのだろうか。
夕べの残り物をメインにして詰め込んだ弁当を抱えて、マシューは彼女を探した。
「マシュー、弁当食べようぜー」
廊下を歩いていると、聞き慣れた男子生徒の声が聞こえて、マシューは彼に一言断りを入れておくのを忘れたことを思い出した。
「ごめん。今日はちょっと先約があって」
本当は無いけれど。
背後から追いかけて来た男子生徒と並んで歩きながら、マシューは続けた。
「彼女、見てないかな」
「ああ、今日から来た?」
「そう。彼女と一緒に食べようと思っていて」
「今さっき教室を出て行ったのは見たけど、知らないな。トイレじゃないのか?」
「…うーん」
所謂、"便所飯"と言うヤツなのだろうか。
マシューの脳裏で想像したくない絵面が浮かび上がる。
「でも、あの子は引きこもっていた子だろ?なんで関わるんだ?今まで特別に仲が良かったわけじゃないだろ?しかも女だし、付き合っているわけか?」
その発言に、マシューは苦笑して、友人の男子生徒に軽蔑の眼差しを向けた。
彼の言動には、純粋な疑問と言うよりも、あきらかな「まーたマシューは爆弾を抱えながら事故物件を選ぶようなことをしているなあ」と言う"いやはや"な態度が伺えたからだ。
「彼女はキミと同じ、気の合う友達だよ。仲良くなることに男も女も引きこもりも関係ない。彼女と関わるチャンスがあったのは本当に良いめぐり合わせだったんだ。逆に聞くけど、キミは彼女に関わらないの?僕と関わるなら彼女とも関わるチャンスは、今後いくらでもあるぞ。それなのに、よく知りもしない段階からそんな態度でいるなんてもったいないよ。一度関わってみて、相性を確かめてみるべきだ。関わるか関わらないかはその時に決めたら良い。友達を選ぶってそういうことだ。食わず嫌いをすることじゃない」
「あー…ごめん」
「今度、彼女と一緒に昼休憩を一緒に過ごせないかな?キミを彼女に紹介したいから」
意地悪く言うと、男子生徒は降参するかのように笑顔を見せた。
「分かったよマシュー。マジでお前といると自分の性格が矯正されていくよ。はあ…、この間母ちゃんにも日国くんを見習えなんて言われたんだぜ」
「他人の子と自分の子を比較して競争させるような不毛なことはやめろ、我が子に対して失礼だ、よそはよそ、うちはうち、ってお母さんに言っておきな。日国くんのおうちはそうやって教わってきました」
「お前の両親に会ってみたいわ」
「まあそんなことより」
あ、そんなことよりって言ったね。
と一瞬聞こえるような気がしたものの、気のせいだ。




