10くち 19
彼女に気を遣わせてしまった。
落ち込みつつも、彼女が黙ってしまったら、マシューからまた話を振らない限り膠着状態が続いてしまう為、なんとか会話を続ける努力をする。
「その、どうもありがとね。兄さん達のことは気にしないで」
「ああっと…うーん、すみません……ごめんなさい」
その後も二人は気まずいながらも少しばかりの会話を楽しみ、夕方になる前にはお開きとなった。
ニルギリをまた持ってくることを告げると、彼女は「自分も代金を払う」と言って、もたもた歩いて部屋の奥へ引っ込み、持ってきた財布から引っこ抜いた千円札をマシューの手に握らせていた。
その鈍い挙動は、彼女が「なにかをしなければと思っても、心と体がちぐはぐで上手く動けない」ことを、彼女の口よりも饒舌に語っていた。
…
そうして、二人は少しずつ絆を深めて今日に至る。
夏休み数日前から始まり、夏休み中盤の今日。
夏風邪を引いてしまい、自分の紅茶を飲み干すや、すぐにマスクをする彼女と今日も他愛のない会話を繰り広げて、マシューはカモミールティーを啜る。
玄関の外を眺めながら、二人は玄関前でくつろいでいた。
彼女が隣で咳き込む。マスク越しに口元を抑え、マシューから顔を背けてえずく。
その背中を擦ってやると、薄着越しにブラジャーのホックに指先がかすめてしまって、すぐに辞めた。
「ねえ、やっぱり大丈夫じゃないんじゃないかな。病人を玄関前に座らせるのは気が咎めるよ」
「えっと、大したことないから、心配するほどじゃ…ね。今のは、さっきのカモミールティーが…ね」
相変わらず、判然としないものの言い方だった。
「じゃあ今日はもう帰るよ。休んだ方が良い。なにか欲しいものがあるなら持ってこようか、アイスとか。なに味が好き?」
彼女は、ソルジャーカードの「マリー」とは似ても似つかない困り顔を見せると、放っておいたらすっぽ抜けて飛んでいってしまいそうなほど首を左右に振った。
「そうか。無理はしないで。よく寝て、よく食べて」
彼女は黙り込んでしまった。
俯くばかりで、伏し目の隙間から除く瞳が、あちこちに泳いでいる。
ああ、そうか。
マシューは一人納得すると、荷物を肩にかけて立ち上がっていた自身の体をまた屈み込ませて、彼女と向かい合った。
固く引き結ばれた唇は戦慄き、大粒の涙が一粒だけ床に落ちた。
「大丈夫」
「……」
「優しくするのは良い友達になりたいからなんだ。友達は大切にしたい。やめるわけにはいかないんだよ。何にも酷いことしないから。身構えたり準備したりしなくて良い。キミ一人が玄関にいて、僕との会話に付き合ってくれたらそれで良い。裏切ったり見捨てたりしない。前向きにキミと付き合っていきたいんだ。だから、大股の一歩なんて大きく前に出なくて良いから、小股の半歩、少しずつ、一緒に進もう」
「……」
「いいかな」
「……うん」
「明日も来るよ」
「…うん」
小さく浅く、彼女は頷く。