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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
10くち「キミを元気にいたしましゅー!キミとボクの秘密のお茶会!!」
116/270

10くち 18

 

「……だから日本に戻って来たんだ。一度、誰からも離れて、自分だけで自分を見つけるつもりで。兄さんが傍にいると、なにをどんなに懸命になって達成させても、比較せずにはいられなくて、自分なんてちっとも大したことなんてやってないって、…自信がどんどんなくなるから。両親や周りに散々言われてきたように、自分でも、"僕は僕だ"って言えるような個性を見つけたいんだ。自分の事を好きになりたいし、信じたい」


「でも、お兄さんは追いかけてきちゃったんだよね」


「早く帰ってくれると良いんだけど、あっちも事情があるみたいで、…もう最近は一緒に暮らしていくのにも前向きになりかけているよ」



 嫌味っぽく言う横で、珍しく、本当に珍しく彼女が笑い声をあげた。

 緩く弧を描いた口元から、控えめな声が漏れていた。

 楽しい話でもないのになぜか笑い出す彼女に戸惑いつつも、笑顔を見せてくれたことが嬉しくて、マシューも笑顔になる。



「どうしたの」

「ううん。日国くんって、やっぱり優しいんだなって」

「兄さんは優しくないって言うけど」

「優しいよ」



 彼女は話している最中、始終笑顔のままだった。

 途中、「久しぶりに笑ったから表情筋が痛い」と更に笑顔を見せた。



「誰の話をする時も、その人をフォローするじゃない?」


「していたかな」


「両親は良くしてくれたとか、お兄さんは凄いとか、嫌だけど事情があるから仕方が無いとか、…私のところにもわざわざ来てくれるし、優しいよ」


「……んん」



 小首を傾げて紅茶を啜る。


「日国くん、自分のことばっかりだよ」



 啜った紅茶を噴き出すかと思った。

 マシューにとってはドキリとするような、耳にも胸に痛い言葉だった。

 しかし、どうやらマシューの早とちりだったようだ。



「日国くんは、自分のことばっかり悪く言って…、自分に優しくないよ」

「そうかな」

「自分に厳しいんだね」



 膝を抱えて玄関の運動靴を見て、彼女は言う。

 不登校になってから長らく使われていない靴のようだ。



「お兄さんのことを尊敬するのも良いけどさ、そのさ、…自分のことを日国くんはもっと見ないとって思うよ」


「二番目の兄さんからは、お前は自分のことばっかりで周りを見てないって言われるよ」


「うーん。その人たちこそ、日国くんのことちゃんと見てるのかな」


「え」


「確かに、日国くんは自分の為に日本に戻って来たけど、それは、日国くんみたいな人には、凄く重要なことなんだと思う。なのに、結局はお兄さんに理解を示して、妥協していて、自分のことばっかりの人だとは…私はとても思えないな。…あ、悪く言うつもりはないんだけど…ごめんなさい、お兄さんのこと……良くない言い方して。それに、日国くんのこと、分かったような言い方して…」


「あ…いや……あー」



 二人とも黙り込んでしまった。

 やけに喉が渇いて紅茶を口に含むけれど、一口分も無かった紅茶は大して喉を潤してくれない。

 彼女は、自分がマシューの家族を悪く言ったから、マシューが気を悪くしたと思って視線が泳いでいる。

 マシューは、自分が彼女を元気づけるはずだったのに、逆に慰められてしまったことが申し訳なく、自己嫌悪に陥っている真っ最中だった。


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