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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
10くち「キミを元気にいたしましゅー!キミとボクの秘密のお茶会!!」
110/270

10くち 12

 

「わ、わかっ」


 "わかった"


 そう返事をすることさえ彼女は待たず、プツ、とインターホンから音が鳴ると、もうそれ以上、なにかが聞こえてくることは無かった。

 空いた口が塞がらない、とはまさにこのことで、呼吸すら一瞬止まってしまった。


「………」


 なんだこれは?



 翌日もマシューはプリントと教科書の束を持たされ、玄関前に立っていた。



「溜まっていたものが実は半分も渡し切れていなかったなんて…」



 昨日の記憶は未だ鮮明にマシューに焼き付き、今日はここに来るのが億劫だった。

 人に明確に拒まれるのは生まれて初めてで、バートに対する態度をもう少し改めようとも思ってしまったくらいだ。

 今日も茶封筒はポストに入らない。言伝を預かるマシューも、無言でそれを玄関前に立てかけておくわけにいかず、渋々とインターホンを押した。

 今日も時間をかけにかけて、「はい」と声がする。



「こんにちは。昨日来た日国です。またプリントなんだけど、ポストに入らないから、玄関前に置けば良…」

「そうしてください」

「わかっ」



 わかった、と言おうとすると彼女はインターホンを切ってしまう気がしたので、すぐに「あー!」と今の言葉を遮った。


「えっと、ど、どう、元気?」


 そう聞くように担任に言われたのだ。

 しかし、こんなことを聞いてどうすると言うのか。



「……」

「あ、げ、元気なわけないか!元気だったら学校来れてるもんな!」



 その通りだ。本当にその通りだ。

 担任はどうして元気かどうかを聞こうなどと思ったのか。

 自分もどうしてこんな聞かずとも分かるようなバカバカしいこと、口にしてから後悔してしまったのか。

 反省していると、



「体は元気だよ」



 不貞腐れているような声が返ってきた。

 会話が続いたことに安心して、マシューはもう少し彼女との会話を試みる。



「気持ちは…落ち込んでる?」

「体は健康なくせして、甘ったれてると思うでしょ」

「思わないっ。心だって健康じゃいられない時がある。今はそういう時なんだろ?」

「……」

「キミは今、療養中なんだよね」

「……」



 返事が無くなり心配になってくる。

 なにかまずかったのかも。

 気に障ることを言ってしまったのかも。

 不安になってくるが、自分まで黙り込んでしまってはいけない。

 せっかく話せるチャンスを逃してはいけないと、マシューはなんとか言葉を捻り出す。



「あのさ、全部良くなるよ。大丈夫だと思うんだ。今だけだよ、きっと」



 慎重になって選んだ言葉のつもりだっだが、しかし、


「帰って!」


挿絵(By みてみん)


 つんざくような悲鳴が静まり返ったマンション内に響き渡り、セミの鳴き声に混ざり合って消えた。

 驚いて一歩足を引くのと同時に、抱えていた茶封筒を落としてしまい、衝撃で紐の封が切れてプリントが散らばる。

 プツ、とインターホンが鳴るのは、彼女が通話を切ったからだ。


 マシューは散らばったプリントを踏み越えて、玄関扉に縋りついた。



「ごめん。無責任なことを言った。本当にごめん」



 返ってくるのは無言ばかりで、仕方なく足元のプリントを集めて茶封筒に戻すことに取り掛かる。

 破れてしまった紐の封は回収して、学校用のカバンの中から、小型のテープを取り出して貼りつけた。

 それを玄関扉の真横に立てかけて、マシューは俯いて帰宅した。

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