3くち 5
段々体の芯まで温まってきて、お互い顔がほんのりと赤くなってくる頃には脱衣所で服を着て、自販機の前に立っていた。
マシューは迷わずコーヒー牛乳を選ぶ。バートはと言うと。
「コーラ!」
「風呂上がりは牛乳かコーヒー牛乳かフルーツ牛乳だろ」
自販機に千円札を入れてコーラのボタンを押そうとしたところ、横から入ってきたマシューにコーヒー牛乳のボタンを押されてしまった
バートは受け取り口に落ちてきたコーヒー牛乳をしばらく見つめ、手に取った後もパッケージを見つめていた。
「俺、シャワーを浴びたら、いつもミネラルウォーターかコーラを飲むんだけどなぁ」
「めそめそするな。飲め」
結局、美味い美味いと言いながら飲み干すのだから。
案の定そうだった。
コーヒー牛乳の紙パックをゴミ箱に放り入れて、二人とも荷物を持って番台に戻った。
「じゃあ佐々貴さん、おやすみなさい」
「帰るのましゅくん」
「うん」
「ご飯はなににするか、もう決めた?」
「夏野菜を添えた鮭のムニエルでも作ろうかと。ほら、繁華街のスーパー、この間鮭がいつもより安かったじゃないですか」
「ああ、そうだね。うちはその鮭はホイル焼きになったよ。でも、良かったら、それ明日にしない?さっき"くめちゃん"がご飯が出来たって言っていたから、食べておいでよ」
「いいんですか」
「いいともいいとも。奥でくめちゃんが待っているから」
やっぱり二人がなにを話しているのか分からない。
バートは二人の顔を交互に見て、首を傾げるばかりであった。
マシューが番台の裏の方へ行こうとするので、老父に自分も行って良いのか、とボディーランゲージで伝えると、老父もカチコチの硬い体を動かして、「どうぞ」と促すように返した。
「ありがとう」
日本御作法大全で読んだ感謝の言葉を述べる。
「ごゆっくり」
老父が返してくれた言葉はやっぱり分からなかったけれど、彼の穏やかな微笑みが、マシューと自分を歓迎してくれていることを証明していた。