10くち 11
放課後。
部活終わりの、夕方のこと。
オートロック設備のインターホンの番号を担任に聞き忘れて、どうしたものかとエントランスで立ち往生していると、警備員の"おかげ"でなんとかマンションの敷地内に入ることが出来た。
自分の外見が、日本人どころかアジア人にすら見えない為に、警備員には非常に怪しまれたが、志士頭学園高等部の生徒であることの確認と、担任に連絡を取ってもらってなんとか信用してもらえた。
鼠色っぽい白髪を撫でつけた警備員は、「ここらじゃ最近、外国人の不祥事とか、慣れない環境でのいざこざとか、まあ、いろいろ多くてね。集合ポストも荒らされて使うに使えなくなっちゃったし。…とにかく、警戒を強めているんだよ。悪いね」と言って、マシューの学生証を返して学校に連絡をしてくれた。ただ、謝ってくれたとしても、「ここは通してやるけど信用したわけじゃないぞ。なにかあったらすぐに警察に突き出してやるからな」と言う視線はよく感じられた。彼が言うところの外国人とのトラブルに、疲れ切っているようだった。
電話で聞き出した番号を押して、オートロック設備のインターホンで呼び出すと、相手は無言のまま自動ドアを開けてくれた。
自動ドアの先の通路の張り紙には、「ゴミは仕分けましょう。投棄は犯罪です。無断駐車、路上駐車は×!トイレ以外での排泄は禁止!」と日本語と英語と中国語で書かれている。その隣には「ご自由にお取りください」と書かれたボックスが設置されており、見てみると、ゴミ出しの仕方や収集日をこれまた日本語版と英語版と中国語版で印字した紙が数枚。日本語版はまだ十枚ほど残り、中国語版は無くなり、英語版は残り一枚だった。
どうにかこうにか、このマンションの人達が共存しようとしていることが伺えた。同時に、うんざりしていることも、殴り書きの張り紙からは感じられた。
エレベーターに乗り込み、警備員と同じくヘトヘトになって部屋の前に辿り着いた。
玄関ポストがあるので、そこに落とし込もうと今まで大事に抱えていた茶封筒を差し込む。
が、ポストの幅と茶封筒の幅が合わず、入りきらない。
「ぐっ!あつこぶとくて、入らん!」
押し込もうとするも入りきらず、変形しつつある茶封筒をポストから引っこ抜く。
諦めて、玄関インターホンを押した。
自動ドアを開けてくれたと言うことは、少なくとも家内に人はいる。直に受け取ってもらうしかない。
しかし、待てども待てども誰も出てはこなかった。
部屋はここで間違いないのに。
不思議に思ってもう一度押すが、それでも誰も出てこない。
諦めずノックをすると、ようやく「はい」とインターホンから声が聞こえた。
生気の抜けた声で、およそ自分と同い年の人間が発する声とはとても思えなかった。まるでゾンビみたいだ。
「こんにちは、同じクラスの日国です。プリントを届けに来たんだけど、ポストに入らないから受け取ってもらえ…」
「玄関前に置いておいてください」
ぴしゃり。
突き放すような声色に、これ以上のオノマトペのつけ方をマシューは知らない。