10くち 7
「"最終決戦-ラストバトル-"では、OLを失った時だけではなく、エースのテロリスト、レジスタンスを失った時にも勝負が決する!"血みどろ魔女マリー"ブラッディ・ウィッチ・マリー"で、"鴉を纏う騎士ザヴィシャ"を攻撃!」
デッキのエースであるレジスタンスソルジャーを失ったことにより、バートの敗北が決定した。
得意顔になるマシューと、残念がるバートと、バトルが終わるや、「じゃあ、仕事あるから切る」とダンケ側から通話を切断されたパソコンが座していた。
がっくり項垂れるバートを無視して、マシューは勝利を噛み締めて机上に置かれた自分のカードをまとめてデッキホルダーに収める。
そのデッキホルダーは、家族写真と、姉のベラーノの写真が並ぶ棚の上に置いた。
壁掛け時計を見ると、針は十三時三十分をしばらく過ぎた頃を指していた。
「いけない」とハンガーにかけていたベルトをジーンズのベルトループに差し込んだ。
クローゼットからバッグを取り出し、キッチンの戸棚に閉まっておいた紅茶の赤箱を詰め込み、他にも、いつもより少なめの最低限の荷物を入れ込んでから、未だにしょぼくれ、惜しみながら机上のカードを自分も集め始めるバートを振り返る。
「じゃあバート、今日も行ってくるから」
「うん分かった。今日も十七時頃の帰宅か?」
「そうなると思う。十七時過ぎても戻れないようだったら電話する。銭湯の準備をしておいてくれる?」
「いいぜ。気をつけてな」
悔しさよりも家族の見送りが優先だと、先ほどの沈鬱とした表情から一転、穏やかな笑みがマシューに向けられている。
それを嬉しいと思うような年頃では無い。
「あのな、毎回"気をつけろ"って言われなくても、気をつけてるよ」
「知っているか?俺の産みのマムが言っていたんだけどな、出かける相手に"気をつけて"って言うと事故にあったりする確率が減るんだってよ」
「嘘くさ」
「マムが言っていたんだからきっと本当だぜ。それに、根拠が無いとしても、俺はお前に気をつけてって言うぜ」
「そうかい。そんじゃ」
「うん、行ってこい」
靴の踵を合わせて、玄関から外へと消えていくマシューの背中に手を振る。
そうして、手の中に集めたカード達を、テーブルの表面で叩いて綺麗にまとめると、バートもそれをデッキホルダーに収めて、マシューのデッキの隣に置いた。
立ち上がって伸びをする。
外はまだまだ明るい。
夏場は十九時になってもまだ日没仕切らずに明るいくらいだ。
「日本語教材を買ってきて、新しいデッキでも作るかなぁ」