10くち 6
「"鴉を纏う騎士ザヴィシャ"に、サポートカード"鳩を纏う狩人ハユハ"を、手札を二枚捨てることで装備!攻撃力が1200ポイント上がるぜ!」
「だがここで!リバースジャマー"悪魔の正名"を発動!悪魔は真名を明かさないことから、このカードは不可能を意味し、相手のサポートカードの発動を無効化する!ハユハは退陣だぁ!」
「ずぇー!カードを一枚伏せてターンを終了するっ」
攻撃力上昇宣言をしようとしたところで、声の下からマシューが割って入った。
バートは不意を突かれ、今しがた場に置こうとしていたサポートカード"鳩を纏う狩人ハユハ"を、そのまま墓所に重ねた。
マシューはこのカードゲームに惚れ込んだ幼少期から、一貫して"マジカルデッキ"の構築と強化をしてきた。
財力次第でいくらでも強力カードを仕込めるバートだが、金銭を積むよりも時間を積んできたマシューの方が一枚も二枚も上手だ。
「ぐうう…悔しいぜ」
サポートカードありきのソルジャーが装備無しの丸裸の状態で戦場に立たされている。
心許ないが、伏せカード一枚がバートには頼みの綱だ。
しかし、マシューが特殊デッキから新たに引き当てたカードは、バートからハユハと言う強力なサポートカードだけではなく、逆転の可能性を秘めた伏せカードをも摘み取る効果を持っていた。
「な、なあ、一回だけ、お前のターンになにもしないで俺にターンを譲るって言うのは無し?」
「なに馬鹿を言っているんだお前は!これは戦争をカードゲームに収縮した真剣勝負だぞ!マハトマ・ガンジー曰く、"平和を望むのなら戦う力があることを証明しなくてはならない。戦う力のない国民に不戦の大儀を説く資格はない"だし、カール・シュミット曰く、"無防備の国民には友しか存在しない、と考えるのは馬鹿げた事であろうし、 無抵抗という事によって敵が心を動かされるかもしれないと考えるのは、 杜撰きわまる胸算用であろう"なんだよ!やられたくなかったら強さの均衡を示し続ける必要がある!それを怠ったものはな、敵でも友でもなく的と呼ぶんだ!よく見ておけバーカラント!これが戦争だ!」
「ずぇえええ!」
マシューはデッキからカードを一枚引いた。
「僕のターン!ジャマーカード"サバトの館-オルギア-"を発動!悪魔や他の魔法使いと交配したことで魔力を高めたマリーは、自身の攻撃力を700ポイント下げることで、相手のサポートカード、及びジャマーカードを最大二枚まで破壊することが出来る!伏せカードを退陣させな、バート!」
「……ずぇぇ」
バートが退陣させたカードは、ジャマーカード「ヘンペルズ・バーズ」。
"手札、デッキ、自陣、墓所のいずれかに存在するハユハおよびザヴィシャをゲームから除外することで身代わりとし、現在出陣しているハユハおよびザヴィシャを攻撃から守り、攻撃力を1500ポイント上げる"
ザヴィシャは防御特化のレジスタンスソルジャーでありながら、攻撃力も防御力も高めに設定されており、サポートカード次第で攻撃特化のテロリストソルジャーをも超える力を発揮する。
しかし、そのサポートカードが封じられては、決定打にかけるソルジャーのままだ。