10くち 5
コイントスでそれぞれの出陣ソルジャーを決めるのがお決まりだ。
マシューがトスをして、バートが裏か表かを言い当てる。言い当てられたらバートが希望したソルジャーの出陣が許されるが、外れたらマシューに選択権が移る。
マシューが手の中でコインを温めている間、バートは難しい顔で指の隙間から見えないものかとあちこちから視線を送った。
悩みに悩み抜いて、遂に「表」と予想したバートに、マシューは手の中で「裏」になっているコインを見せてやった。
「残念だったな!僕は攻撃特化のテロリストソルジャーを選択する!"血みどろ魔女マリー-ブラッディ・ウィッチ・マリー-"を出陣!」
マシューは通常デッキの隣で今まで放置されていた特殊デッキを手元に寄せた。
一番上のカードを引くと、その一枚を新たに場に置く。
日国デーでバートがマシューに贈った、可愛らしい魔女のイラストが印刷されたカードだ。
攻撃力5500、防御力0と表示されている強力なこのカードの存在を、今になるまで忘れていたバートは、思わずまばたきを何度も繰り返した後、「エースにしてもらえて光栄だ」と困り果てた表情で言った。
アメリカで生活していた頃では見せたことも無いような顔をして、バートは頭を抱えていた。
優勢だった頃の顔面の紅潮はもはや綺麗さっぱり褪めている。
マシューには少し気分が良くなる話だ。
「ちなみに、バートが買ってくれたもう一枚のカード、"恩光の乙女マリー-ブライト・メイデン・マリー-"は、"ブラッディマリー"と対になる、防御特化のレジスタンスソルジャーなんだ」
「子供の頃に一目惚れしてから、ずっと欲しくてたまらなかった」と、場に出ている"血みどろ魔女マリー-ブラッディ・ウィッチ・マリー-"、通称ブラッディマリーのカードをうっとりと見つめるマシューに、贈ってやって良かったと思うのと同じくらい、もう少し後に贈ってやれば良かったと一瞬だけ後悔もしていた。
「続けようか。僕は、マリーにサポートカード"血だれる蝋燭"を装備!攻撃力が500ポイントアップ!更に、カードを一枚伏せる。…お互い、出陣から1ターン目は、サポートとジャマーの発動は出来ても、攻撃指令は出来ない。ターン終了だ」
「くっそー、テロリストを出陣出来なかったのは悔しいが、俺にも自慢のレジスタンスがいるんだぜ!」
「見せてみな!」
「ああ!鼻の頭洗ってよく見な!」
色々間違った日本語な気がする。
ダンケからのアドバイスではないのだろう。
「俺は、レジスタンスソルジャー"鴉を纏う騎士ザヴィシャ"を出陣!攻撃力3900、防御力4300だ!」
サポートカードとジャマーカードが充実していれば敵無しとまで言われる、ウルトラレアソルジャーだ。
一枚だけで買おうと思ったらいくら必要なのか、マシューは考えたくなかった。