10くち 4
それが書き終らない内に、マシューは更なる宣言をする。
「更に"ゾッキ兵"の特殊効果発動!相手ソルジャーとの戦闘で発生したオフィサーへのダメージを0にする!よって、"ゾール"と"ゾッキ兵"の戦闘で発生する僕へのダメージは無効となる!」
自分だけ1300ポイントものダメージを受けたことを悔しがりながら、バートはターン終了宣言をする。
同時に、マシューが自分のターン開始を宣言した。
「僕のターン!」
デッキからカードを一枚引くと、マシューの目つきが変わった。口元が弓なりに笑んでいる。
嫌な予感を察知して、バートの顔が引きつった。
「バート、今回のデッキはお前のオリジナルデッキじゃなかったな?」
「ダンケに協力してもらって作ったんだ。俺、まだあんまりこのゲームのことを知らないから。でも、お前と仲良く出来る口実になるし、日本語に対する新しいアプローチって意味でも、触ってみたくって」
「ふん、なら今度はオリジナルのデッキを作れるようになったら本気のバトルをしようか。ダン兄のコピーデッキじゃ、どうもお前と戦っている気がしないよ」
「分かった」
「なら良し」
そこで、マシューは手札からカードを一枚引き抜きバートに見せつけた。
「さあ、今度はお前が負ける覚悟をしろ!」
「へ?」
「まず、サポートカード"物資補給"により、僕のOLを400ポイント回復。そして、ジャマーカード"土は土に、灰は灰に、塵は塵に"!このカードはゲーム開始の5ターン目以降に発動出来る!自らのOLを3000ポイント捧げることで、互いに手札を全て捨て、フィールドに存在する全てのカードを退陣させる義務を課す!イベント勝利報酬の非売品カードだ!」
「なにぃ!?」
「一生没落していろゾール!」
バートから強気の姿勢は既に失われていた。
ソフトクリームをコーンから落としたか、カップ焼きそばの湯切り中に麺を落としたか。
とにかく、せっかく出陣させたゾールを"悲しそうな"顔で退陣させ、手札のカードも合わせて全て墓所に重ねる。
マシューも自陣のソルジャー、サポート、ジャマーと、最後に手札を墓所に置き、自身のOLを3000引いた数値をメモ用紙に書き込んだ。もはやマシューのOLは風前の灯火だ。
戦況は変わらず、OLではマシューが劣るものの、しかし勢いでは負けていない。
更にこれから、マシューが最も得意とするバトルモードに突入することで、バートの勢いは今より失速する。
「双方の場にカードが一枚もセットされておらず、尚且つ1ターン目以降になったことで、オフィサー権限"最終決戦-ラストバトル-"を行使する!"レジスタンス(防御特化)もしくは"テロリスト(攻撃特化)"と言う最強ソルジャーの出陣が、双方オフィサーにノーコストで許される」
片方のオフィサーは防御特化のレジスタンスソルジャー、もう片方のオフィサーは攻撃特化のテロリストソルジャーに別れて、一騎打ちをすると言うのが"最終決戦-ラストバトル-"だ。
"自分が最も信頼しているエースソルジャー同士を一対一で戦わせる"のだから、このカードゲームのオフィサー達にとっては、最も崇高なプライドを賭けた戦いとされている。