10くち 3
「再興可能な貴族ソルジャーである"没落貴族-ゾール-"と、その従者であるスチュワードとバトラーが揃った今、二体の従者の特殊効果により、スチュワードとバトラーをゾールの供物に捧げ退陣させる!これにより、没落していたゾールは再び貴族として再興する!」
デッキを広げてその中から一枚を引き抜き、バートはそのカードを新たに場に置いた。
「"王位を継ぐ公爵-ゾール-"の台頭だ!!」
攻撃力2200、防御力2500のスーパーレアソルジャーだ。
運だけでこのカードを引き当てられたらかなりラッキー。150円の一パックに封入されている五枚の内にこのカードが混ざっていたら、きっとマシューは咽び泣いてお天道様に掌を合わせてしまうだろう。
このカード一枚だけを買おうと思ったら数千円が飛ぶレベルだ。
一介の高校生には、アルバイトをしていたとしても、自分で支払いに待ったをかけてしまう代物だ。だってその数千円で何食食べられるのか。何パック買えるのか。
「再興したゾールは、没落時代の特殊効果で支払われてきたポイントを、ゾール出陣オフィサーのOLと、ゾール自身の攻撃力と防御力に三分割して加算出来るのさ!"コールドスリープ"と"没落貴族-ゾール-"の効果コンボで、マシューから600、俺から600、合計1200ポイントが支払われた!これを三分割すると、俺のOLと、ゾールの攻撃力、防御力は400ポイントずつアップする!」
攻撃力2600、防御力2900。
「更にサポートカード"貴族の教科書"によって、ゾールの攻撃力がもう400ポイントアップ!攻撃力3000だ!」
没落時代に蓄えたパワーを再興と同時に発揮する。今回は1ターンで済んだが、没落時代が長ければ長いほど、ゾールは強くなり続ける。そこにサポートカードを合わせたら、攻撃力3000越えなんてあっという間だ。
敵にしたら面倒極まりない。
「待たせたな!アタックタイムだ!ゾール公爵でマシューのソルジャー"ゾッキ兵"を破壊する!」
「ただでやられてたまるか!」
しかし、どんな条件下でも、このカードゲームをずっと好いてきた自分が、一朝一夕の新参者に負けるわけにはいかない。
マシューは自陣の伏せカードに手を伸ばした。
「ここでリバースサポート、"不可能への断行"を発動!通常、攻撃してくる敵陣ソルジャーより能力値が高くなければ、自陣ソルジャーは破壊される挙句、ソルジャー同士の能力値の差分がOLから削られるが、"不可能への断行"は、その差分ダメージを、相手オフィサーにも与えることが出来る!つまり、僕だけが受けるはずのダメージを、お前もそっくりそのまま受けるってことだバート!1300ポイントをOLから引きな!」
「ぐぬぬぅ!そんなカードがあったのかぁ!」
「このカードの発動代償として、僕の場に存在するソルジャーを一体墓所へ送る!」
計算が苦手なバートが電卓を打つよりも早く、ワイヤレスヘッドホン越しにダンケが残りのOLを教え、バートはそれを忘れないようにメモ用紙に書き込んだ。