1くち 1
アメリカの思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイストである、ラルフ・ワルド・エマーソン曰く、「絶えずあなたを何者かに変えようとする世界の中で、自分らしくあり続けること。それは最高の偉業である」
デジタル時計のアラーム音が鳴っていた。
寝返って時計を止める。
1ルームのアパート。
寝茣蓙の上に布団を敷いて眠っていたマシューは起き上がり、枕より上に置いた眼鏡を、目を擦りながら探し始める。眼鏡を探る手が床を少しばかり叩いた後、ようやく眼鏡のブリッジに指先が触れた。
覚束ない動作で眼鏡をかけたマシューは、大きな欠伸を一つ零して、しぱしぱとまばたきを繰り返してから、やおら立ち上がる。そして朝一番に、
「おはよう」
アメリカで撮影した家族写真に、眠気眼のまま挨拶をした。
まだ自分が写っていない家族の写真。
この頃マシューはまだ生まれていなかった。
まだ若い父と母。とても小さな兄と姉の写真だ。
一人暮らしを始める際、父と母のアルバムから抜き出して持ってきた、自分を除いた家族写真だった。
マシューを除かなければ、他の家族が映りきらないのが、日国と言う家の人々だった。