情報が足りない
疑いたくない。でも、夏希が犯人かもと考えてしまう自分がいる。う~~。
「明菜、まだ時間は大丈夫だと思うし、夏希さんのこと確かめようよ。このままじゃずっと悩んだままでしょ。」
「あ、ああ。」
正直怖い。夏希が犯人だったら・・・。俺の思いとは関係なく裕太はベビーカーを押す。
夏希は実家暮らしで、俺も何度かお邪魔したことがある。俺の住むアパートからは徒歩20分とそう遠くない。見慣れた風景が近づいてくる。心の準備が・・・。
ピンポーン!
裕太がインターホンを押した。すると夏希のお母さんが出てきた。こちらが探偵であることを伝え、あの日夏希はどうだったかを聞いた。
「そうですね、娘はあの日20時前には帰ってきましたよ。その後はずっと家の中に居ましたね。それは私達家族が確認しています。」
あの日夏希が俺の家を出たのが19時半くらいで、俺が寝たのは21時くらいだったから、夏希のアリバイが証明された。夏希は犯人じゃない。よかった・・・本当によかった。
で、また調査をしないといけない訳だけど、あんまり遅くなると奈央が心配するので、社宅に帰ることにした。
帰るとただいまと同時に奈央がやって来て、俺を抱き抱えるとお外はどうだった?楽しかった?と語りかけてくる。話すことのできない俺は笑顔を作るだけ。なんかこのやり取りも慣れてきたな。それから3人でまったりと部屋で過ごした。事件のことも調べなきゃいけないけど、ずっと考えてたら心が疲れちゃうから、ゆっくりもしないとね。ん、ちょっとトイレ。裕太~。ふぅー、やっぱり制限されるのは辛いところがあるな。
夜になり、今日もお風呂で裕太と作戦会議だ。
「明日も情報収集に出かけるとして、犯人を追い詰める為に殺害方法をどうだったか考えないといけないね。」
状況を整理しよう。俺の部屋の鍵はかかっていた。俺は心臓に包丁が刺さり死んでいた。しかも、俺が両手で包丁を握っていた。俺は寝たままで刺されたことに気がつかなかった。
まずはどうやって部屋に侵入したかだ。鍵は俺と夏希、親それに大家さんが持ってる。父さんや母さん、夏希が俺を殺すとは思えない。大家さんにも恨みを持たれるようなことをした覚えはない。だとしたら、合鍵を持った誰かから、犯人が鍵を拝借したのかな?それに誰かが犯人に鍵を受け渡したかも考えられるな。それなら夏希もまた容疑者の1人ということになってしまう。あとは、ピッキングということもあり得る。ピッキングなんて簡単にできるものなのかな?
次に俺を殺した方法だ。死因は心臓を刺されたことによるものだろう。俺は寝ていて刺されたことに気が付かず死んでいたから、睡眠薬を飲まされたか、あるいは麻酔のようなものをされたのか。睡眠薬はまだしも、麻酔なんて普通の人が用意できるのかな?
「何にしても情報が少ないね。明菜、警察にも聞きに行ってみない?」
「警察か、確かに情報をけっこう集めているとは思うけど、門前払いされないか?」
「ものは試しだよ。さあ、そろそろ上がろうか。」
警察か、大丈夫かな?この前病室で俺が転生者だと疑う刑事さんもいたけど。また疑われるような、そんなときは・・・。不安を残したままベッドの上で目を閉じる。