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東方夢現大戦  作者: 野伊豆
眠り姫
2/3

第一話 奇天烈登校風景

読みにくいところや直した方がいいところなど批評受け付けています。

 ピピピピッ、ピピピピッ。

 朝のけだるさを何倍にも引き立てる物、それがアラームだと思う。

 確かに毎朝セットしてるのは自分だし、起きられない自分が悪いとは思うけど。

 起きなきゃいけない、でも布団の中は暖かくて、気持ちよくって、ついつい起きられない。それで気づいた時にはもう遅いなんてこと、よくあることだよね。


 「うっさいわぁぁぁぁー!」


 怒りを込めた叫びが突然部屋に響き渡る。アラームなんかよりもよっぽどうるさいその声に、私は体をびくっとさせて飛び起きた。


 「ひゃうっ!?」


 飛び起きた拍子にベットからずれて床に落下。

 すごく恥ずかしい感じの声が出てしまった。


 「もぉ、なによ~……。びっくりしたじゃない!朝はもっと静かにしてっていつも言ってるでしょ?」


 寝起きでくらくらとする頭を押さえながらベッドに這い上がる。


 「なら、まずこの騒音を何とかしなさいよ!毎朝毎朝、何度も何度も、ピっピピ、ピッピピ、うっさいのよ!」

 

 充電器に差し込まれたスマホの中には、寝癖付きの髪を逆立てて不満を爆発させている霊夢(れいむ)がいた。よく朝からそんなに口が回るな、と素直に感心する。


 「だからってそんなに大声で怒鳴らなくってもいいじゃない?」

 「はぁ?こんな騒音を間近で聞いてても、よだれ垂らしてへらへら寝てる奴にはこれくらいがちょうどいいでしょ?」


 口元を手で拭ってみた。

 ……恥ずかしかった。


「うぅ……。ごめんごめん。明日からはもっと早く起きれるようにするから……ふわぁ……」


 謝っている途中で大きなあくびが出てベッドに倒れこむ。もともと朝は弱い方で寝起きがいいなんてことは滅多になかった。


 「あんた、昨日も同じようなこと言ってたじゃない?まったく、全然成長しないんだから……。というか、そんなにのんびりしてていいの?」


 枕に顔をうずめてふかふか、うとうとな私に霊夢はため息交じりに言う。


 「ふぇ?なにが?」

 「何って……。ん」


 霊夢は画面の中央から横にずれて、自分の体で隠れていたホーム画面の時計を私に見せた。

 寝起きのぼやけた視界でその時刻を確認して私は青ざめる。時計は無情にも時間を刻みすぎていたのだ。


 「ん?……うっわ!遅刻だぁぁぁぁー!」


 再び部屋に叫び声が響く。私は慌ててベットから飛び出ると、ついた寝癖を梳かすこともなく、急いで着替えを始めた。


 「なんでもっと早く起こしてくれないのよ?!ていうか、霊夢!また勝手にアラーム止めたでしょ!?」

 「知らないわよそんなの。何度かはちゃんと鳴ってたのに起きなかったのはあんたのせいでしょ?毎朝安眠妨害されてるこっちの身にもなりなさいよ。それに早く起きたいなら誰かに頼らず、ちゃんと自分の力で起きないと意味ないでしょ?甘えるんじゃないわよ」

 「む~、いじわる!」

 

 私はむくれながらもスカートを穿()き、リボンを結んで制服を着終えるとクローゼットを閉めて机に向かった。

 見るとスマホの画面がさっきとは変わっていて、そこには八畳ほどの和室が広がっていた。

 霊夢は画面の中で備え付けの鏡台に座り、櫛で髪を梳かしている。綺麗でつやのある茶色がかった黒髪がとてもうらやましい。

 短髪でくせっ毛な私とは大違いだ。久しぶりにストパーでもかけてみようかな、なんて思ってみたりする。まぁ、どうせすぐに元に戻っちゃうのはわかってるんだけどね。

 机の横にぶら下がっている鞄を手に取ると口早に霊夢に声をかけた。

 

 「急ぐよ、霊夢!」

 「はいはい。ほんと、朝から騒々しいわね……」


 充電器からスマホを抜き取ると、それを胸ポケットに入れて急いで部屋を飛び出した。目の前の階段を駆け下り、床の摩擦でくるりと体を捻るとそのままリビングに突入する。


 「おはよっ、お母さん!トーストとお弁当もらってくね。行ってきます!」

 「えっ!?こらっあんた、待ちなさい!」


 お母さんの呼び止めを無視してトーストを口にくわえると、急いでお弁当を鞄に詰め、玄関へと向かった。

 靴を履いて外に飛び出す。

 後ろでお母さんが何か怒ってたけど、まあ、いつものことだ、気にしないでおこう……。 そんなことより、今は遅刻しないことを第一に考えなくては。


 家から学校までの道のりは歩いて三十分。自転車を使っても十五分近くはかかってしまう。でも朝のホームルームの予鈴がなるまでにはもう十分も残ってない。バスが来るのを待とうものなら、乗れさえせずにバッドエンド。

 こんな絶望的な状況で、普通の高校生なら、どのような行動をとるんだろう?

 必死になって走ったり、自転車をこいだり、中には開き直ってゆっくり歩いて登校するなんて人もいるかもしれない。でも、ここ数日の私はそのどれにも当てはまることはなかった。そう、今の私には、決して誰にもまねできない私だけの秘策があるからだ。


 「よひ、晴れへる晴れへる!ひゃあ霊夢、ひょうもよろひふ~!」


 トーストを食べながら霊夢に話しかけ、胸ポケットからスマホを取り出す。

 霊夢は既に寝間着からいつもの巫女服に着替え終え、白いフリルのついた大きなリボンを結んでいた。


 「あんた、ちゃんと食べてからしゃべりなさいよ、行儀悪いわねぇ……。ていうか、ちゃんと私の分も残しときなさいよ?」

 「んっぐ。ごめんごめん、後でちゃんとあげるからさ。それより早く!時間ないんだから」

 

 そう言って私はスマホのホームボタンを長押しした。すると、スマホ全体が白く光を帯び始める。

 

 「はぁ、仕方ないわね……」

 

 霊夢はリボンを結び終えると、ため息をつきながら画面のこちら側に向かって手を伸ばした。

 

 「じゃあ、いくよ」

 「はいはい」


 私は人差し指で画面上の霊夢の手にタッチし、それと同時に二人は声をそろえてこう言った。


 「「コネクト!」」


 瞬間、ふわりと体が軽くなる。

 それと同時に私は周りに人がいないことを確認すると地面を強く蹴り、空に向かって高く跳び上がった。

 地面はどんどん遠くなり、晴れやかな青空がぐんと近くなる。

 二階建ての家の屋根にまで届くと、そのまま猛スピードで屋根の上を跳び駆け学校を目指して跳び出した。

 そう、これが私の秘策だ。

 住宅街の上を文字通り跳んで移動する。そんな、普通の人には決してできないようなことが今の私には簡単にできてしまう。


 「よっと。あぁ、やっぱり跳んで行くのが一番速いね~。障害物もないし、学校まで一直線で行けるんだもん」

 「ああ、はいはい。よかったわね」

 

 まるで忍者のように住宅街の上をトントンと駆けていく。

 もちろんこれは私の身体能力が高いわけでも地球の重力が月と同様に軽くなったわけでもない。

 もしクラスの友達に『今日は遅刻しそうだったから、屋根の上を跳んで登校してきたんだよ』なんて和やかに言ったら頭のゆるい子だと思われてしまうだろう。当然、私はそんな残念な子じゃないし、世界は今もこれまでと変わらない常識を保ちつつ回っている。

 じゃあ、なんでこんな常識はずれなことができるのか?

 それは今もスマホの中で不満そうな顔をしてぶつぶつと悪態をつき続けている少女――博麗霊夢のおかげだ。


 「ちょっと、聞いてるの?」

 「えっ?なに?ごめんきいてなかった」

 「あんたねぇ……。力貸してあげたんだから早くそれ寄こしなさいって言ってんのよ!」

 

 それというのはわたしの食べかけのトーストのことだ。私たちはわけあって同じ釜の飯しか食べられないような生活を送っている。

 まぁ、実際自由に食べられないのは霊夢だけであって私自身はお金さえあれば好きなものをいくらでも食べられるのだけど。

 うん、お金さあればね……。

 

 「ああ、ごめんごめん。ちょっと待ってて今送るから」

 

 私は屋根の上を跳び駆けながらスマホ上のアプリを起動した。

 紫色の背景に黒い隙間からたくさんの目が覗くアイコン。この気味の悪いデザインは何度見ても気持ちが悪いと思う。

 隙間転送。それがこのアプリの名前だ。

 起動すると画面上に大きく『入』と『出』という文字が表示される。『入』を選択するとその下に大きさと書かれた枠が表示された。適当な数字を打ち込んで決定ボタンをタッチする。すると、スマホの裏側の空間にひび割れが生じ大きな隙間が出現した。

 これも非常に非現実的で摩訶不思議な出来事だけど、今更こんな程度で私は動じたりはしない。


 「じゃあ送るよ~」


 友達にメールを送信するような軽い気持ちで私はトーストを隙間に向かってぽいっと落とした。

 トーストが見えなくなると、ぽっかりと口を開けていた隙間がバクンと口を閉じる。初めから終わりまで本当に気持ちが悪い。まあ、もう何回も使ってるから流石に慣れちゃったけどね。

 

 「ちょっと、あんたこれ食べすぎなんじゃないの?!半分も残ってないじゃない!?」

 

 スマホの表側から声がする。見ると、さっき隙間に吸い込まれていった食べかけのトーストが霊夢の手の中にあった。

 

 「ああ、ちょっと急いでたから多めに食べちゃったかも……。ごめんね」

 「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!?どうしてくれるのよ私の朝ごはん!」

 

 霊夢はものすごい形相でこちらを睨んでくる。例えるなら般若か、ヤクザか、金剛力士像か……。とにかくすごく怒っているようだ。

 食べ物の恨みは恐ろしいとは言うけど、たかがパン一枚でそこまで怒らなくってもいいのに。

 

 「あんた……あんまり舐めた態度ばっかとってると、コネクト切っちゃうわよ!」

 「わあぁぁぁ!やめてやめて!そんなことしたら私落ちちゃうから!遅刻するどころか死んじゃうから!」

 

 パン半切れでここまで本ギレできる人も珍しい……。本当に恐ろしいな、食べ物の恨みって……。

 

 「学校ついたら購買で新しいパン買ってあげるから!今は我慢して、ね?」

 「む、むぅ~……。しかたないわねぇ……。高いやつよ、高いやつ!安いの買ったりしたら承知しないわよ」

 「え?う、うん……わかった。高いやつね、高いやつ」


 私の懐事情もそれほど暖かいわけではないのに、霊夢はこういうところで抜け目なく持ち前のがめつさを発揮してくる。でも、これまで何度もお世話になっているし、その見返りとして必要な出費だと思えば安いものだと思えなくもない。

 言ってしまえばスマホゲームの課金みたいなものだ。決して良心的な運営とは言いがたいけど……。


 霊夢とこんな風に過ごすようになって既に十日余りが経っていた。彼女はある日突然私のスマホに表れたのだ。

 最初はスマホが新種のウイルスにでも感染したのかと思った。

 幻想郷とか言うところから来たとか、妖怪とか神様とか、不思議な力とか、とんでもびっくりな話ばかりされて、もちろん私はちんぷんかんぷん。

 だけど彼女はすごく真剣で感情が豊かで、AIのような無機質なものではなく人そのものの意思と心が伝わってきた。だから話を聞いているうちにそれが本当のことなのかもしれないと私は思うようになっていった。

 そして、私が彼女の話を信じるに至った一番の理由は、今私が使っているこの不思議な力、『コネクト』が深く関わっている。

 なんでも、幻想郷から来た人たちはそれぞれが特殊な程度の能力を持っていて、この『コネクト』という特殊機能は私たちの持っているスマートフォンを介して彼女たちの持つ能力を共有することができるらしい。

 ちなみにこの機能は私たちに頼みごとをしてきた依頼主から与えられたもので、Bluetoothのようにいつでもオンオフが可能なのである。

 本当、便利に使わせてもらっている。

 初めて使ってみたときのことは今でも忘れない。

 自室の天井に頭を思い切りぶつけて、一発で霊夢の話を信じる気になったよ。

 『空を飛ぶ程度の能力』それが霊夢の能力だった。

 文字通り空中を自由に飛び回ることができるらしいが、コネクトで使うことができる力はオリジナルより大きく力が低下するらしい。

 だから私が普段使える力はせいぜい体を軽くして高く跳び上がる程度。だけど、それだけでも便利すぎる力だし、不思議なことが現実に存在するということを理解するには十分だったと言える。

 でも、このコネクトには大きなメリットもある分、デメリットも存在する。

 この力は便利に使える反面、ある恐ろしいものを呼び寄せてしまうエサとしての役割も持っているからだ。


 「ねぇ、霊夢。この辺りはどう?バグの気配感じる?」


 学校まで残り数キロといったところで霊夢に尋ねてみた。


 「んーん」


 トーストをもぐもぐとむさぼるっている霊夢は軽く返事をして首を横に振った。草食動物のようなそのしぐさがなんともかわいらしい。


 「そっか、じゃあ今日は無事に学校まで着けそうだね」

 「んっぐ。そんな弱気でどうすんのよ。私らからしたら、あんな奴らさっさと全部片づけてもらって、すぐにでも幻想郷に帰りたいんだけど?」

 

 霊夢の言う奴らというのは私たちが日夜戦い続けている敵のことを差している。そんな風に言ってしまえば、私が正義のスーパーヒロインみたいな印象になってしまうけれど。実際はそんなかっこいいものじゃない。

 言ってしまえば害虫駆除のアルバイトみたいなもので決して世間の注目を集めて褒め称えてもらえるようなものではなかった。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

次話はもっと分かりやすくなるよう努めます。

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