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懊悩の淵  作者: 粘土
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懺悔・四

読んでも意味が解らない事でしょう。

此の世界に不具かたわの人間が幾つ在ろう。恐らく、軽度の者と、侮蔑される者も含めると半数以上になる。実際的に何も出来ない障碍者などほぼ居ないのである。詰まり、何かしら役に立つ不具の連中が大半を占めていると云えるのである。少々飛躍するが、水俣病の患者達は何うだろう。何も出来なかったのであろうか。仮に、何も出来なかったとする。然し、彼等は“生きて呉れた”ではないか。投石を喰らおうとも、罵声に脅かされ様とも。“今”に生きる僕らの路を切り拓いて呉れたのだ。彼らに僕等は称賛と、美しき花束を贈らねば嘘であろう。たとい、赦されなくとも。

 其れは其れで好いとして、何よりも問題なのは、隠れ持病である。例えば、僕は“てんかん”を持病として生きて来た。更には、強迫性障害と、うつに悩まされている。之等は最早治らぬ。従って、其れなりの線を引き、自身の体との妥協点を見出すしか無い。此処で問題視されるのは、上司、或いは部下の申告の義務である。実際に其の問題を口にすると必ず蹴られる。職を、である。働かねば生きて行かれぬのに、正直であると金を稼ぐ事さえ出来ない。馬鹿正直に幸は無い。然し、其れは罪なのであろうか。誰も傷付けず、不確かな力を振るう事も無い。だのに、何時でも劣等感を覚え、何時でも想いを控えねばならぬのは何故だ。何時、僕等の様な不具が迷惑を掛けたのだ。いや、存在する事をさえ、忌み嫌うのは何故だ。

 最早生きる事が罪であると認識されている世の中に何の様な光明を見出せば良いのか、僕には判らない。沢山の仕事を経験し、其のいずれに於いても、正式な契約を結んで呉れる処など無かった。即ち其れは、僕と云う存在の否定なのである。脳が悪なのか、それとも、僕と云う個が邪魔なのか。之から先何を考え、何を想えば好いのだろう。出鱈目を云って人を騙すのは生に合わない。いっそ、僕を描こうか。凡てに於いて負の価値しか持たぬ僕を。中々に面白いエッセイになる筈だ。或いは、永遠の転寝うたたねでも為ようか。久遠の時を、夢の中で過ごそうか。……ああ、嫌だ。嫌味な語りだ。愚劣で下劣で醜悪な物云いだ。冒頭で挙げた彼等を踏み躙る、頗る悪い行為だ。気取るな、甘えるな、妬むな、恨むな。矮小なる僕よ。


 星を見上げるのに必要なのは、両切りの煙草と、コーヒー、其れに酒だけで好いのだ。潮騒しおさいが子守唄だ。赤ガニが意地悪をしても気にするな。舟虫ふなむしに齧られるのも悪くは無い。ああ、彼等は何時眠っているのだろう。


文学なんてのはそんなもんです。

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