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懊悩の淵  作者: 粘土
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懺悔・三

何だか之で一本の書き物になりそうです。

 沢山の金は持たない。僕の主義である。紙は大きな災いをもたらすだけだ。必ずと云っていい程に揉め事の種となる。だからして、僕は金を残す積りは無い。又、受け取って構わない金も、僕は求めない。判然はっきり云って邪魔である。諸々の手続きを考えると、先の事とは云え、辟易する。死ぬ時分を何時にようかと思案する人間にとって、其れは矛盾するだけのものである。今年の夏、僕は天に還ろうと思っているのだ。老いを観るのが辛いのだ。余りにも哀しいのだ。他にも理由が有る。僕の体は既に平静では居られない程に病んでいる。脳髄から腹の中まですっかり病んでいる。最早、生き永らえるのを目標とているのだから、全く必要が無いのである。

 肉として意味の有る決闘なら幾らでも為た。只、其れが為に大変な迷惑を掛けた。一人位なら好しとするが、大勢の人に煩悶を投げ付けた。具体的に云うと、他人の倉庫を漁ったり、夜中に枯れ葉を集めては其れを燃やして遊んでいた。火炎瓶も作った。神社を襲ったりも為た。流石にそんな事を赦す世間では無い。僕の代わりに、探偵に呼び出された友も居た。幸いと云っていいものか、彼は事情を聴かれるだけで済んだ。

 初めての愚行は、紙入れを盗んだ事である。他人の物ではない。商品棚からである。たった五秒程でし遂げた。誰も気付く者は無かった。其れからと云うもの、僕は世間に顔向けの出来ない生き方を為た。自分と同様に思考の働かない者は愚と決め付け、ぶん殴って顎を外したりもした。其れでも平気で居た僕は、正しく阿呆であった。其の辺の厄介者を集め、暴走族の真似事も為た。結局其れは日の目を観なくて済んだのであるが、今にして思えば、大馬鹿者の一言である。

 然し、今の僕は善人である。好い意味ではなく、騙されてばかりいるのである。先達て、バングラデシュからの男に出会った。彼は銀紙の貼り絵を一枚二千円で買って呉れろと云うのであった。僕は彼を信じた。そうして二万円を超える紙を遣って、貼り絵を全部買い取った。きっと二束三文にしか成らぬであろう其の貼り絵を、僕は命を削って稼いだ金で買ったのである。笑わば笑え。僕も笑っている。只、金では無い繋がりも有るのだ。詰まり、其れをこそ訴えたい。確かに、盗みは好く無い。自身の血で以って贖うしか無い。其れでも、働きに因る金を使うに相応しい相手は必ず居る。たとい、彼氏が嘘を吐いていたのだとしても……。

 嗚呼、燃やす可きは情熱。流す可きは甘雨かんうと成り得る泪だけ。其れにこそ目を向ければ、易き悪戯いたずらも、巧妙ないたずらも他愛の無い児戯なのだ。即ち、僕等は等しく自由で、けれども、教育と云う脚色に因って、勝手に色付けられた奔放をのみ与えられているのである。否! 与えられたものに頼る必要など無い。得た物にのみ、心を開放せよ。さすれば拓かれん。何処への路を。自身の目指す丘を。僕は其れだけを願う。


なるべく、そうならない様にします。

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