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四苦討伐作戦・前篇

 具体的な位置を伝えられた私達は、しばらく騎士に混じり同じように行軍した後、等間隔に広がっていくらしい。

 端の部分、中立魔導やエンペラー帝国、戦争党と交わる部分は騎士が務めている。特に、攻め込む予定のあるレイフェスとスターはその中でも最北、いつでも中立魔導に攻め込める部分にいるらしい。といっても、ギャチルの予想箇所に優先して当てられているけれど。

 私もその中の一つ、レベルレット三王国より北西の位置に配置された。

 人数がギリギリということもあり、北も、南も、西も、東も、ギリギリ人影が見えるかどうか、というくらいにしか見えない。

 さて、どれだけ待てばよいのやら。

 そもそも盗賊だの何だの、ということでこの辺りを拠点にしているというだけで、こうやって網を張ってまんまと引っかかるほど間抜けじゃないのではないか。

 万一奴らが現れたとして、私のところに現れるとは限らない。数多くの騎士と接敵するか、不運な国民が犠牲になるか、があったとして私がアイベリーを倒せるとは限らないのだ。

 それでも私は変身している。別にこれは疲れるわけじゃないし、こうしていればいつでも時を止められる。

 しかし、来てほしくない人みたいなことを考えているけれど、本当にアイベリーには来てほしいものだ。

 心待ちにしている、当たると思っている宝くじの結果発表を待つように、私はデスイートの冷たい体を軽く撫でながら、足を軽く動かす。

 すると、声が聞こえた。

「四苦が出たぞー!」

 最寄の騎士の声じゃない、遠くから、重なるように。

 この声が何度も反響する。どうやら伝言ゲームのようにどこかから響いてきたのだろう。

 なら私もその流れに乗らねばならない。

 しかし、本当に出たのか。

 じゃあ安心して。

「四苦が出――」

 同時に、目の前に道化の仮面が現れた。

「だぁっ! ちくしょう!」

 悪態を吐くアイベリーの鎧には既にいくらかの血がついている。果たして誰の血か。

「で、出た」

 私は言葉をそれだけ言うと、自分を加速させて素早く距離をとった。

 鎧に身を包むアイベリーを、デスイートで切れるかどうか。グフトなら瞬殺なのに。

「お前は……この間振りの奴じゃん、けっけっけ、懐かしいな」

「……ええ、本当に。愛しくて愛しくて片時も忘れたことはなかったわ」

 何も握られていない左手が、熱く固く結ぶ。

「でっかい鋏だねぇ? 工作でもするのぉ? うけけけっ!」

「ゴミ処理よ。古くなった道化をぶち壊すの」

「ほざけ!」

 大きく体を回転させて、その勢いのまま鉤爪のついた拳を私に向けるアイベリー、しかし、無意味。

 時間は止まる。

 籠手の柔そうな部分を探すが、どうも壊す術に欠ける。両断するか、拳で突くか、どうしたらいいのやら。

 悩む暇はない、デスイートを左手に掴み、右手の鉄拳で鉤爪を叩き折る!

 これは上手く成功し、そして距離を再び開けて時間を動かす。

「な、んなぁ!?」

 相手はまだ私の能力に気付いていない、気付いたところで対処のしようもないだろうが。

「四苦が出たぞー!」

 私は大声で言った。とりあえず人手があれば安心、何より武器を壊せばこちらのものだ。もう一回時間を止めてもう片方の鉤爪を壊せば、後は騎士でどうとでもなろう。

 四方から声が響くと同時に、足音も集まってくる。

(でも、止めは私が刺す)

「やってくれたな、糞野郎!」

 そう言って別の鉤爪を動かしたアイベリー、距離を待つ、絶対に壊せる位置まで振りかぶれば……。

 同様に時間を止めて武器を壊す。この義手なら、それができる! ありがとうスター!

 動き出した時間の後、ついに武器を失くしたアイベリーが、自分から距離を取っていく。

「くくっ、くそっ! お前何者なんだよぉ!?」

「あなたが殺し損ねた、ただの一市民よ。あなたを殺す一市民」

「そんなのがいるかぁ!」

 今度はアイベリーは高く足を挙げて蹴りつけようとしてきた、けれどそこに光明が見える。足首に装甲はない。

 時間を止めると同時に、私はアイベリーの右足首をデスイートで切断した。

 そして時は動き出す。

「あ、っぎゃああああああああああああ!!」

 ああ、なんて小気味よい絶叫、色々考えたけれど私はこの瞬間のために復讐を強く望んでいたのだろう。

 いや、この瞬間ではない。

 仰向けに倒れたアイベリーの上に馬乗りになり、デスイートの刃を彼女の鎧の首を挟むように置く。

「覚悟はできた!? 死ぬ覚悟!!」

 ああ唇が歪む。勝手に笑ってしまう。笑っちゃ駄目だ。笑っちゃまるで悪人、スイートのためにならない、デスイートを見て落ち着こう。あと一歩でアイベリーを殺せるデスイートの邪悪な刃を!

 アイベリーが両腕で私の足を掴もうとする、いや左足は既に掴まれた。だが時を止める。

 デスイートはそのままに、義手の指から飛び出た針を思い切りアイベリーの手の平に突き刺した。鎧の装甲が弱くなっているだろう関節部分、彼女の手首を見事に針は貫通した。その鉄を貫く感覚も、肉を貫く感覚も、伝わる。

 今まさに右足を掴もうとするそちらの手にも、念のために針をぶっ刺す。右肩にいくらかの反動が来るし、もしかしたら無理をさせた義手自体もガタがくるかもしれない。でも今は、それでいい。

 時間が動く。

「いぎゃあああああああ! な、なんなんだ一体ぃ!!」

 おーおービビってるビビってる。誰が時間を止めるなんて想像するかしら? そんな絶望的に強い能力を敵が持っているなんて普通は誰も思っても信じない。余程の証拠がない限りね。

 体から血を流しのたうち回る、両手は力を失くしてデスイートを何とか握るだけで、足の方も意味をなさないバタつきを見せるだけ。

 もうアイベリーは私に歯向かえない。

殺すだけ。

だけど、まだこれじゃ足りない。

「あなたの残りの仲間の居場所を教えなさい? あなたと同じ場所に送ってあげるから」

「誰が言うか! どけっ! どけよこのクソババア!!」

 時間を止めて、左の足首を切断し、再び時を動かす。足首に装甲がないことはもう知っている。

「あっがぁぁぁあああああああ!!」

「気に入らないことを言ったら『首』って名前がつくところ、一つ一つ切り刻んであげるから」

 なんて言ったところで、ようやく周りの四人(全員騎士)がこっちに来た。

「四苦は……」

「ああ、もう平気よ。情報を聞き出している途中」

「しかし、捕えねば……」

 やはり殺すに際し、騎士を呼んだのはまずかったか。けれど一人で取り押さえられるとは思わなかったから、悔やんでも仕方がない。

「捕えることには成功しているわ。だから他の人の援護に行って。私なら平気よ」

「しかし……」

 うざったい。一人でじっくり殺したいというのが分からないのだろうか。分からないのだろう。

 けれど私はずっとずっとこの時を待ち望んでいたのだ。

「じゃあトニとウェルバは見張っておいてくれ。俺達は他の援護に行ってくる」

 というと、二人は元の位置に戻り、残る二人は最初に声がした西の方へと行った。

 ゆっくり見送ると、道化の仮面と目を合わせる。

「やっと二人きりになれたわね」

「……テメェ、どういう魂胆だ?」

「人が見てるとあんまり虐められないでしょ? さあ、仲間の居場所を吐きなさい」

「オンゾーグさんを殺したのはテメェらだろうがぁ!!」

「あら、あのジジイ死んだの?」

「……クソッ!」

 足首がなくては、足を動かすのも辛い。手の平にも風穴が空いている、抵抗する気を失ったアイベリーはだるそうに顔を横に背けている。

「どうやって死んだの? 誰に、どういう風に?」

「なんでんなこと話さなきゃなんねえんだ? ええこら!?」

 時間を止めた。

 手についている鉤爪の武器は籠手と別らしく、あっさりとそれを外し、右の手首を切断。

「あっ! うわあああああああ!! 手が!」

「あの爺がどうやって死んだか、聞いているの」

「す、スターだ! 軍がいるからって、適当なところで三人揃って出たら、スターがいきなり切ってきたんだ! それをオンゾーグさんが、俺とグフトを別の場所に転移してくれて……」

「それで私がいたわけね。ふーん」

 ギャチルの賭けは大成功に終わったらしい。思わず唇の端が歪む。このクズを殺す機会を与えてくれてありがとう。

「でも、私が聞きたいのはそれじゃない。もう一人いるんでしょ? 四苦なんだから、最後の一人が」

 言うと、アイベリーは見るからに挙動不審になった。

「しっ、知らねえ! 俺だって知らねえんだ! いつもオンゾーグさんが一人で会って、それで指示をもらってんだ。俺とグフトは知らねえよぉ!!」

 時間を止めて、仮面を外した。

 すると中には、怯える緑色の髪の少女が入っていた。

 見た目に気を使っていないようでボサボサだが素地は悪くなく、スイートと同じ年ぐらいだろうか。

 黒い目が、怯えている。

「なっ! いつの間に仮面を……」

「女の子だったのね。だめよ、ちゃんとした喋り方しないと。それに立ち居振る舞いもね」

「うるせえっ!」

 残った左手首を、右手首と同じ手順で切り落とす。

「いやあああああああああっ!!」

「もう、残ってないでしょ? 首しか。まあ乳首もそうだけど、流石にそんな、女の子だしね。素直に次は首を落としてあげる」

 愉快愉快。

「じゃあもう一つ質問。所属は? あなた達はどこの国の出身で、誰の命令を受けているか。言える?」

「さ、最後の一人、カイクー」

 目を逸らした彼女の顔の鼻を鉄拳で殴りつけた。これは時間を止めずに。

「あああっぐ!」

 傷ものになったそこを擦ろうとでもするのか、手を動かすアイベリーだけれど悲しいことに、デスイートの刃が彼女の首を囲んでいてそれもできない。まあ、両手首と足の傷に比べればマシでしょ。

『おいリナ。その辺でやめとけって』

(まだ情報を引き出せてないでしょ。私の国じゃ拷問は禁止だけど、ここはそうじゃない)

『いや拷問は禁止だ』

(嘘だ)

『本当だよ』

 しかしハングドマンの言う通り、アイベリーの顔はだんだん青白くなっていく。そりゃあ血が流れていくんだ、いずれ死ぬ。

 だったら早く聞き出さないと。

「じゃあアイベリー、答えられなかった質問二つ、カイクーの居場所と、それがどの国のどういう部隊の所属か。それが言えたら速やかに殺してあげるから」

 既に鬱屈とした表情の彼女は何を言っているのやら、とよく分からない顔をして徐々に弱っていく。

 私も心が痛む。アイベリーとの時間をあとほんの一時しか過ごせないなんて。

 こんなに楽しくて心躍る時間なのに。

 アイベリーの首には一応鎧と兜があってデスイートでは切り刻めない。無理すればできなくもないが、あえて弱い力で挟み込む。

 そして時間停止と加速を応用し、それを高速で繰り返す!

 ガンガンガンガンガンガンと鉄が鉄を叩く音、その衝撃をアイベリーは涙目で受ける。

「い、いやああああああああ!!」

 壊れろ、壊れろと念じる。念じたところで壊れないのは知っているけどね。

 私は今笑っているだろうか。怯えて泣き叫ぶアイベリーを見て、笑っているだろうか。

 鎧は壊せないかもしれない。でも少しずつ切れ目がついているかもしれない。でもいきなり首を両断する真似はしない。鎧が壊れても、首の皮一枚残るように少しずつ、少しずつ切り刻み、いつの間にか頸動脈が切れて死ぬように殺す。

「叫べ叫べ! 犬のように意味のない言葉を言いなさい! 無様に泣いて死ね!」

 でも情報を吐いてもらわないと困るなぁ。こうやってじわじわ殺すのは初めてだから何とも言えないけど、楽しいのも確か。私ってば性格悪いのね。

「中立魔導! 中立魔導のどこかのテントの中にカイクーがいるらしい!」

「あ、そうなの?」

 まだ手は緩めない。

「俺らは戦争党の特務部隊だ! 国防四人組と争う四人組で、遊撃隊として緑の大地を中心に活動してたっ!」

 ぴたりと手を止める。

「本当?」

 アルドラに行った出任せが、まさか事実であるのだろうか。

 それとも早く殺して欲しいだけの嘘か。

 まあ、どちらでもいいが。

「分かったろ、だから、もう……」

 アイベリーは静かに涙を流し始める。心が痛む、なんて悲しい。

「……殺さないわ。安心して、殺すわけがない」

 アイベリーの首の鎧に切り込みを入れたデスイートを外し、ゆっくりと持ち上げる。

「ほ、ほんとう?」

 そして、怯えるアイベリーの首に、閉じたデスイートを思い切り突き刺した。

 噴き上がる鮮血! そして絶叫!

「嘘に決まっているでしょ」

 呆れた。多くの人を殺してきた女が、あっさりと騙されるなんて。

 喉も切り裂かれているだろうに、彼女は不思議とどうやってか言葉を呟いた。

「か、かけたぞ、魔法。あの世で会おう……」

 死に際にかける魔法なのだろうか、果たしてどういうものなのか。

「……ふふ、ふははははは……」

 血に濡れ重くなった体を平原の風が冷やす。

 確かな充足感があるのに、どこかに虚無感もある。この矛盾が復讐というものなのだろうか。

『リナ……』

「なによハングドさん?」

『……いや』

「あはは、ふぅ。あとはグフトとカイクーね。うんうん」

 虚空を見つめピクリとも動かないアイベリーを一瞥して、私はゆっくりと北に向かって歩いた。


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