表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/55

四苦討伐作戦会議・後編!

 四苦討伐という大規模な侵攻計画、それがようやくまとまりかけていたところで。

「もう一度言わせてもらうが、私はその計画に協力するつもりはない」

「なんで?」

 部外者である私が! 王を説得したというのに! 何をスターは躊躇っているのか!

 と怒りをこらえつつ尋ねると、スターは面白くなさそうな顔をした。

「リナ、良き臣下とはどういうものか分かるか?」

「主を苛立たせないこと」

 言うとスターは立ち上がって私を真剣な顔で見た。

「間違った主君を止めることだ」

 そんなこと、そういえば言っていたような。

「何が間違っているのよ。言ってみて」

「君が危険だ」

 スターはそれきりうんともすんとも言わない。

「それだけ?」

「ああ」

 これがスターじゃなかったらHAHAHA! と慣れない大笑いをしてやるところなのだが、彼女が嘘も冗談も言わないと知っているからこそ、私も返事に困った。

「じゃあ主君の命令、手伝いなさい」

「断る」

「あなたの一人の意見でどうにかなるの?」

「そう思うなら私なしで作戦を遂行すればいい」

 アルドラの方をちらりと見ると、ホオフが先んじて呟く。

「中立魔導を奪うことはスターなくして可能だ。だが防衛の方が手薄になることは間違いないだろう。我が魔法を使えば攻められた際の被害を最小限にできるだろうが、そこまで付き合う義理もないな」

 今こいつ、また余計なことを言った。

「協力してくれるんじゃねえのか!?」

 とギャチルが叫ぶと、ホオフは呆れたように言う。

「私はリナリーベルトの復讐を見届けるだけだ。こんな国には義理もなにもない」

 私って大人気(だいにんき)なのね、なんて嘯くと周りの騎士に顰蹙(ひんしゅく)だろうなぁ。

「未来予知はなくても平気よ。問題はスターが協力してくれるかどうか。ねぇ?」

「ねぇ、と言われても答えは変わらん」

「星奈に、スターに意地悪されたって伝えるわよ」

「彼女は私を信じてくれるだろうな」

 スターは凄い自信でそう言い切る。高い実力の騎士だからの自信か、慢心は駄目って習わないのかしら?

「どうしたら参加してくれるの?」

「中立魔導に私がいる間も、そして緑の大地に我々が配属される時も、君と私が一緒にいることだ」

「あらあら、スターは寂しがり屋さんね」

 軽く笑ってみたが、スターは表情を変えない。

「リナ、それでいいか?」

「いいわけないでしょ」

 あまり余裕を持って冗談を交えて、というわけにはいかない。そもそも部外者の私がどうのこうの言える問題じゃないのだ。

「それはただのあなたの我儘、国のために尽くしてこそ騎士でしょ」

「私は今は君を主君にしていると言っただろう」

 騎士のざわめきがちょっと心地いいけど、言うことを聞かない部下など不要だ! と切り捨ててしまいたい。

「だったら私の言うことを聞きなさい! 私は元の世界に戻るより、自分の命よりもあいつらに復讐したいの!」

「子供みたいなことを言うな! 君だって分かっているはずだ、復讐が何を産む!? 一時の憂さ晴らしのために命まで捨てるのか!?」

 声を荒げるとスターも声を荒げた。

 その気迫たるや、伝説の騎士なんて輝かしいものよりも禍々しい。

「そんな言葉! 人を殺して何か産むと思ってるの? 騎士だって要は人殺しじゃない!」

「おい、それは……」

 ホオフが何か言おうとしたが、周りの騎士を見回しても、誰も何も言わない。

 ただスターを見ていた。

 そしてスターは言った。

「ああ、そうだ」

 これには、私も何も言えない。

「だから我々は守るために殺す。何かを生み出す人々のために戦うのだ。けれど君の行為は独りよがりな」

「じゃあ私が何を生み出すの? 私を守るんじゃなくて、この国の人々を守るために戦うのが道理じゃない?」

「君は賢いよ。少なくとも私よりも」

 スターの言葉は、いまいち要領を得ない。

「だったら私の言う通りにしてよ。お願いだから」

 苛立った頭を落ち着かせ、懇願する。

 スターの理論なら、そもそも私に仕える意味などない。

 最強の騎士様が私を守ってくれるなんて!

 なんて喜び、何も考えてなかったけれど、スターが私を守る意味は果たして何ぞや。

「君を危険な目に遭わせるわけにはいかない」

「なんで? あなたにとってなんで私が主なの? 私が何かした?」

 やっと尋ねたその言葉を、待ち望んていたかのように言う。

「君が星奈を助けてくれた時、火野札科学研究所でワールドと仁藤玲子が全てをまとめようとした時、君の立ち回りと行為は実に知的だった。何よりその本性、私ですら露程気付かなかったよ」

「それ、生産性ある?」

「今星奈が無事に暮らしているのはきっと君のおかげだ」

 それこそ妄想だ。思い込みが激しいと言わざるを得ない。

「別にあれなら、腕なしが勝手に暴れ出すなりしたでしょ」

「それなら、チェンジャーは危険物扱いされただろう。そうならなかったのも君の采配の結果だ。恩を返し、君の知恵を君の世界に戻す。それが私の使命で、君に仕える理由だ」

 そう彼女は断言し、更に続けた。

「レイフェス殿から話も聞かせてもらった。アウロラ共和国での立ち振る舞い、中立魔導での戦い、君から聞いた話はどこか人間味に欠ける第三者の視点だったが、助けられた教皇猊下やレイフェス殿、アルカやジャッジメント殿などはとても君に感謝しているそうではないか」

 そして彼女は、真正面から私を見据えようと、私の両頬を掴んだ。

 どころか、額に額を押し当てるまで、してきた。

「たった一人の人間だとしても、君は私が守る価値がある。伝説の騎士、護国の剣である私が守る価値が、ね」

 自分の立場をも利用して私を褒めてくれるのは嬉しいものだ。

「近い近い」

 照れ隠しをしながら、私は何とかスターを説得する術を考える。

(ハングドさん、なんかない?)

『お前に分かんねえもん、俺には分かんねえよ。お前のが頭良いっぽいし』

 適当に返されたものだ。

 こういう時は本音を話すに限るのだろうか? 既に本音に近い私の、改めての想い。

「あなたの気持ちは凄く嬉しいわ、スター。自分に自信が持てるし、恐怖をも忘れることができる。けれどね、親友を目の前で殺されて、そいつらをみすみす見逃して、それで復讐を危険だから止めろなんて都合が良い話でしょ。私がギャチルの作戦を押し通して、追加案まで出して、それで一人安全なところで働かせる。まあ、そういう人もいるでしょうけど、そこで退くようじゃ、あなたが守るべき一人の人間たりえないわ」

「だが……」

「危険は承知よ。あの時だって一人で玲子を足止めしたのよ? そして今、こうして生きている。あなたの主である私を信じて、絶対に死なない」

 スターは神妙な面持ちで私を見た。どう説得してやろうか、なんて顔にすら見える。

 私ははぁ! と大きな溜息を吐いて、今度はスターの両頬を叩くように掴み、頭突きするみたいにスターの額に頭をぶつけた。

「信じなさい!」

 こういう力技は柄じゃないのだけれど。

 何なら額を押し潰さんばかりに押し付けているのだけれど、彼女は石頭だから私の方が痛い。

「……ふふ」

 スターは笑った。近すぎて、その吐息が熱い。

「笑った、あんたの負けね」

「睨めっこではないのだぞ? だが、君は笑わないんだな」

 こっちは真剣だ、あたぼうよ! なんて普段の私なら言うだろう。こっちじゃ全然、普段からそんな喋り方をしないけれど。

「……君を死なせてしまったら、私はどんな顔をして星奈と会えばいいんだ?」

 疲れたように息を吐いて言うスターの悲しげな表情を、私はやっとスターを解放した。

 もしも、私が元の世界に戻り、スターが戦って死んだとしたならば、と考えてみる。

 あの純粋な心優しき少女に、私が何を言えようか。

 ……何も言えない。

 けれど、逆に星奈ならこの状況でどうする?

「…………あの子が私の立場ならどうすると思う? やっぱり四苦を見逃さないし、絶対に安全なところであなた一人に戦わせたりしない」

 スターははっと、気付かされたような顔をした。

「スター、復讐は私の我儘だけど、四苦の討伐はこの国を挙げての作戦よ。そこには私とあなたの我儘なんか挟む余地はない。戦い、平和な世界にする、みんなが笑顔で暮らせる平和な世界に、ね」

 いかにもあの子が言いそうなことだ。それを利用するのは、卑怯かもしれないが。

「……く、君のそういう頭の良さを私は認めているが……それは、少し狡い」

 文句の一つも言いたげな表情のスターは、頬を膨らまして、いつにもまして可憐な姿だった。

 けれどそちらには何も言わず、私はアルドラとギャチルに向かって言った。

「OKサインが出たわ。ギャチル、私はアルドラみたいには言わない、私の命をあなたに賭ける! あなたはこの国の無辜の民と多くの騎士と自分の全てを賭けなさい!」

 しばらく私とスターだけが話していたから気が抜けているかと思ったけれど、彼は思いの外威勢よく、そして素早く返事した。

「当然! アルドラ! ナタラシオン! もう文句はないな!?」

 二人はそれぞれ頷く。

 四苦討伐作戦は通った。

 後は、倒すだけだ。




 四苦のうち、確認されているのは三人、怨憎会苦(おんぞうえく)、恨み憎む相手と会わなければならない苦のオンゾーグ。

 三人組の中のリーダー格で、黒い鎧を兜を纏った、皺の深く刻まれた男の老人。

 瞬間移動をする魔法、正式名称は確か転移魔法、近くの人間ならば敵味方問わず移動させ、その距離制限は不明。戦闘能力も分からないが、固い鎧に身を包み、しかも瞬間移動が可能となると一筋縄ではいかない。今回の作戦で最も注意すべきキーパーソンの一人。

 元の世界でも玲子は瞬間移動ができたけれど、私はそれを使わない玲子に、時間停止を使っても負けた。能力に慣れていなかったというのもあるけれど、彼女は自分だけが移動できる空間を作り出せたり、とオンゾーグ以上に強力な能力を使っていた。

 殺すなら不意打ちしかないだろう。逃げるだけなら最高の能力だから。

 次に戦闘員二人、同じく鎧と道化の仮面を被った、愛別離苦(あいべつりく)、愛する者との別れの苦を暗示するアイベリー。

 両手の鉤爪でスイートを切り裂いた張本人で、私が絶対に殺したい相手。

 情報はよくわかっていないのが問題だ、四苦の二人と比べて最も狂気じみた雰囲気だったが、糖分魔法によって強化されたスイートを倒すほどの相手となると、恐らく戦闘力は特に高いのだろう。

 ああ、憎い、こいつが一番憎い。

 最後のグフトとか言うのは、特にどうでもいい。一人だけ軽装の戦士でかなり若い。ナイフを持っていたが、オンゾーグの瞬間移動によって私に触れ、苦痛魔法で私を苦しめた。

 苦痛魔法の詳細も分かっていないが、まともに頭を働かせなくなるくらいの激痛が全身に走る、警戒は必須だ。



 騎士が着々と準備を終え、ギャチルが自分で作った図表に忙しなく目をやっている。

 が、ふと私の方を見ると、近づいてきた。

「なあ、異……、いやリナリーベルト、ありがとうな、皆を説得してくれて」

「王自らの労いの言葉、感謝の極みです」

 営業スマイルにギャチルも呆気にとられたみたいで、愕然とした後に言う。

「普通にしてくれ。気持ち悪い」

「気持ち悪いとは失礼ね。ナタラシオンなら泣いて喜ぶと思うけど」

 いや喜びはしないか。でもどうだっていいことだ。今はただ敵のことを思い出し、憎み、それ以外の何も考えないようにしたい。遠慮なく殺せるように。

「いや、それで一つ相談なんだけどよ、お前って本当に強いんだよな?」

「一人の王を自決のように殺しかけるほどの実力はあるんじゃない?」

「いやそれは……。瞬間移動つっても体は弱いんだろ? 逃げるだけじゃ勝てないし」

 まだ勘違いしていたのか、ギャチルは。

 能力の秘密を喋るのは危険だが、それでも作戦を立てる彼には話さねばなるまい。

「私の能力は時間操作って言ってなかったっけ? 時間を止め、誰もが動けない世界の中で私だけが動ける、それが私の能力。魔法とは言わないけど」

 ギャチルは呆然と口を開けていた。驚きの表情は見ていて楽しい。

「そりゃ……瞬間移動より強いんじゃねえのか?」

「さあね。ただ前は人を殺す力がなかった。でも今はある」

 右手に握られたデスイートを示す。仰々しく禍々しい刃は、けれど私にはどうも愛らしく見える。

「……いや、安心した。お前を立派な一戦力として数えるぜ」

「好きにしなさい」

 再び意識を闇に落とす。

 復讐の意味、スターは憂さ晴らしと言い、私はケジメだと言う。

 確かにただの殺人、国からしてみれば悪党を殺す善行、視点と考え方によっていくらでも変わるこの行いは単なる善悪で測られるものではない。

 それでも言えることは、私と共にいたスイートを殺したのはアイベリーで、そのアイベリーが今も変わらずに、同じように人を殺しているとしたら、止めない道理はない。

 私にとって絶対の間違いであるならば、たとえ悪と罵られようと善と褒めそやされようと、止める。

「進軍を始める!」

 ギャチルの一喝が場を整えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ