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リナの武器

 部屋に戻ってうつらうつらしているところをリウスに起こされた。

 彼女は無言で階段の方を指さす。そこには黄金の鎧を纏った二人の人間がいた。

「リナリーベルト様、こちらへ」

 まさか外出許可がもう下りたのだろうか、にしては早すぎる。体感、三時間は寝ていない。

 二人の鎧は異様な迫力を醸し出しているが、その後声を出したスターの気迫がそれを上回っている。

「何の用だ?」

「三王がお呼びです。先の外出許可の件で直接話し合いたいと」

 スターの気迫が私に向いた。

「リナ、私は聞いていないぞ?」

「言ってないし。ほらやっぱりスターって拘束してきそうな感じだからちょっとは隠した方がね……」

「その件だが、私も同伴させてもらおう」

 スターが私を無視して二人の騎士へ言った。

 だがそれでは許可されるべき私の申請まで取り消されてしまうだろう。

「困りますスター殿、いかにあなたと言えどもはや退かれた身、引き下がって下さい」

「ならば逆賊と身を落とし、今から国に立ち向かうことも考えよう」

「……それは、何のつもりでしょうか?」

 騎士がスターに問う。自分の言い分が通らねば国の騎士が国を裏切ると、スターはそう言っているのだ。

「言葉通りだ。それ以上の意味はない」

「ちょっとスター、それは流石に……」

 彼女は私を一瞬睨んだ。黙れ、ということだろう。

「よく考えることだ。別に王の許へ向かうのみならば構わんだろう?」

「……鎧なしのあなたが、我々を押しのけて行けるとでも?」

「私に敵うつもりなのか!? 二人で!? いやはや、最近の若い騎士とは血気盛んで素晴らしい! 鎧と正式な剣の点で君達は有利だが、試す価値があるとは思えないな」

 言いながらスターは自分が打ったと思われる剣を一つ取り出した。それに乗じて二人の騎士も刀を抜くが、その輝きすらスターの物の方が強い。

「正式軍刀を打つ職人は二代目になったのだろう? それなら私の方が上手く打てるさ。さあ自信があるなら来い」

 二人の騎士は顔を見合わせた後、言った。

「ではリナリーベルト、スター殿、こちらへ」

 あっさり折れやがった。情けないったらありゃしない。

 溜息を吐きながら階段の方へ向かうと、肩を掴まれた。

「なあリナ、私は君にもたくさん言いたいことがあるんだ……」

 背中に怖気が走るのを耐えながら、私は歩みを再開した。



 三人の王が会議する場所は一歩踏み込んだだけで空気の違いが分かる。

 床に広がる青い絨毯の踏み心地、壁に飾られたX字型の剣に国の紋章、鎧は中に人が入っているかのような威容。

 中央の円卓は色、艶、模様の三点に関しては、自然のものながら最高級品の調度であると確信できる。

「……何故スター殿まで?」

 座っていたアルドラが一声、しかしスターは毅然とした態度のままだ。

「リナに外出許可が出るのなら、私にだってあってもいいと思わないか?」

「いやいや師匠、それはおかしいっす。だって師匠が外出たらもう秘密守れないじゃないですか」

 ギャチルが卑屈そうな感じに言うが、スターは態度を何も買えない。

「変装すればいいだろう。姿が分からなければ問題あるまい」

「しかし護衛を連れてしまってはヒック……、民から怪しまれます」

 アルドラが酔っ払いながら真面目なことを言う。真面目なら会議中に酒を飲むなと言いたいが、スターと三人の言い争いに参加するつもりはない。

「なら護衛なしで構わないだろう。リナの暴挙を止めるのが役目なら、私が止める」

「二人でここから逃げ出す可能性もあるでしょう?」

「ならそうしないように遠巻きに護衛を仕込めばいい」

「何人必要だと思ってんだよ? 瞬間移動能力者に最強の騎士、無理無理」

 ギャチルが怒りで言葉を荒げるが、そんな彼の表情も睨み返すスターによってすぐ怯えた。

「瞬間移動能力者なら閉じ込めても護衛をつけても無駄だろう! それにその言葉遣いはなんだ! 目上の者を敬うのは騎士として常識以前の行為だぞ!」

「相手は王でしょ……」

 一言私が漏らすと、スターに睨まれた。意外とこの人は激情家らしい。

「リナ殿は外出がしたい、スター殿はそれについていきたい。しかし二人の望みを単にまとめるならばやはり目的は必要でしょう。リナ殿は何故に外出がしたいのですか?」

 今まで沈黙していたナタラシオンが口を開く。その内容の真っ当さに私は少し驚きつつ、本音を告げた。

「武器が欲しいの。もし四苦と対面した時に必ず敵を殺す武器を手に入れたくて」

 誰も何も言わなかったけれど、スターだけが僅かに表情を曇らせた。

「それなら注文して下さればいいのですよ?」

「直接見て、手に取ってみなくちゃ分からないでしょ、それだけ大切なものは」

 腕を失くしては何の武器が使えるかも分からない。片腕で扱える物を私は見つけたいのだ。

「ならスター殿が同伴する必要はないでしょう。護衛を……二人つけ、リナ殿単独での外出許可を出しましょう」

 ナタラシオンの言葉をスターは否定できず、ただ一言告げた。

「ナタラシオン、一体どうしたんだ? スター殿、なんて……」

「恋とは、人を変えるものなのです。……ふっ」

 彼はそう言って私を見た。私を。

「はぁ? ……はぁ!?」

 それには誰もが驚愕の表情を示していた。当然私も含めて。



 後日、出発の日となった。

「王宮を出てすぐそこに兵士御用達の武器屋がありまして、伝説の騎士スター、栄光の騎士グロリア、思慮の騎士エリーラなどがそこで武器を購入し戦果を挙げたという謂れがあります」

 白い鎧をつけて言われたことしか言えませんみたいな騎士はそう言った。

「そんな伝説とかどうでもいいんだけど、種類はあるの? 武器の種類」

「かのエリーラはギロチン台を片手に戦場を駆け抜けたという騎士です。思慮深い彼女は一撃で敵を屠ることを重視し、そんな蛮行に走ったと……」

「思慮の騎士のくせに蛮行とか言われてるんだ。っていうかそれ絶対に嘘でしょ? お店でギロチン台を買って戦場でそれを持って走って相手の首を断頭台にかける馬鹿がなんで思慮の騎士なのよ」

 馬鹿馬鹿しすぎるのに、まともに突っ込んでしまった。相手にするだけ無駄だろうに。

「スター殿が購入したのは手裏剣と呼ばれる小型の刀で相手に向かって投げつけるものです。確かに人を切る武器ばかりですが、その形状や種類は多様、グロリア殿に至っては……」

「他人の武勇伝はもういいわ。そこに行くから早く出発しましょ」

 傍らでスターが恨めしそうに私を見る。彼女は留守番だから言いたいこともあるのだろう。

「おや、もう一人が来ました。では行きましょう」

 それは小さなミイラとしか言いようのない存在だった。

 けれど包帯の隙間から見える赤い目と、部屋の中にはリウスがいないことが私にその予想をさせた。

(これがリウスって子だと思ってんだな?)

「気にせず行くわ。別にどっちでも、ただ武器を買うだけなんだから」

「はい? 何か?」

「いえ、あなたには言ってないから気にしないで」

 鎧とミイラを連れて、私はその武器屋とやらに行くことにした。



 武器屋と言われて真っ先に想像したのは欧米にあるガンショップだ。厳つい店主が睨むように客を見る様は……私がガタイの良いゲルマン民族に偏見を持っているだけか。

 だがこっちは異様すぎる。多種多様な武器が八百屋の野菜のように適当に出し広げられている様は、どう考えてもおかしい。

 しかも無人。適当に持っていかれても文句が言えない。

「店主は?」

「ストースはいつも奥の工房で武器を作っており、完成すればここに並べるそうです」

「盗まれないの?」

「鉄資源は豊富ですから盗む必要がないのです。それに、盗んだところで使いこなせる人はそういませんから」

 鎧の方は言いながら、雑に陳列された商品の中から鎖のように小さな刃物が連なった武器を持ち上げた。確かに剣士ばかりの国で鎖鎌より使いにくい刃物の鞭など、誰が使うのやら。

「でも危なくない? 頭おかしい人が勝手にとって暴れ回るみたいなことは……」

「町には多くの騎士がいます。そんな事件は起こりえません」

 治安が良い、ということにも種類があるが、こちらではそれだけ警察の役割がきちんとしているのだろう。日本は教育の賜物だが、こちらは政治権力が強みらしい。

 私も一つ奇妙な武器を手に取ってみる。簡単に言えば鉄製のうに。

「これ、どうやって使うの? 投げることもできないんだけど」

「さあ? 私にも分かりかねます。ストース殿は偏屈でいらっしゃる」

 おほほ、と馬鹿にするように鎧は笑った。こいつ、意外といい性格している。

「勝手に武器を持って行っていいのですよ。ここはそういうお店ですから」

 言いながら鎧は勝手に奥に行って、端から商品の品定めを始めてしまった。本当にいい性格しているなぁこいつ。

「じゃあ私も見習って」

 逆の反対側に行って私もじゃらじゃらと鉄を鳴らしながら武器を見た。

 この国の軍刀は西洋のサーベルのような剣だが、ここにはより細く突き刺すことに特化したレイピア、叩き斬ることに特化した斧など他の国で見られた武器もあるし、投げつける手裏剣や苦無、ベアクローやパタのようなナックルダスターまである。

 これら全てを独自で考えたとしたならば、ストースという男は相当な危険人物だろう。効率よく人を殺すための手段、武器の本質というものを考えて常に人を殺す術を考え続けているのだろうから。

「これ肉切り包丁……」

 簡単に分厚い肉を切り裂けるし携帯性にも優れるが、武器屋に並べるのは倫理的に駄目でしょ。彼に倫理なんてものはないのかもしれないけど。

「これ切っ先が丸い剣……これなに? 先っちょでジャガイモとか押し潰せそう」

 普通は切る、突く、の二つの動作が刃物にはある。そのために剣は切っ先と両側が鋭い。

 槍は刃物を突く部分のみ強く、他の部分を棒などにして軽くし突くことを重視し、斧は突かない代わりに刃を湾曲させ切ることに特化している。

 しかしこの剣は突くための切っ先が丸まっており鈍器としてしか使えず、しかし両側は普通の剣同様に鋭い。

「……切るためだけの剣」

 リウス(もど)きが呟いた。

「へえ、悪趣味で無意味なものも作るのね。馬鹿みたい」

 正直な感想を漏らし、次の物を見た。

 それは大きな鋏だった。けれど持ち手は子供の頃に遊んだマジックハンドのようで、ただ力任せにレバーを引っ張れば挟んで切るようになっている。

「これは……リウス、これはどう思う?」

「ここを引っ張れば、刃が……あ! 私はリウスじゃない!」

「ああ、ごめんごめん、なんだか私の知り合いに雰囲気が似てたからつい」

 声がどう聴いてもリウスだし、まあリウスなんだろうけど、そうじゃない方が彼女にとって都合がいいのだろう。

「鋏かぁ……」

 大きな鋏だ。人の首すら、これなら切断できよう。

「ちょっと試してみるわね」

 残った左腕でレバーを引っ張ると、なんとかジョキンと音を立てた。

 だが、何かを挟んで切るとなると、力をさらに入れなくてはならない。

「ねえ、人の肉と同じ硬さの物はない?」

「物騒ですね。ストース殿を呼ばないといけませんが」

「じゃ、ちょっと行ってみる」

「その必要はない」

 扉が突然開くと、丸い眼鏡をかけた頑固そうな老人が赤い謎の肉の塊を放り投げてきた。

「あ、どうもお邪魔してます」

 鎧が一言いうが、ストースはふん、と鼻を鳴らすだけだった。

 ただ私は肉に刃を当てて引っ張ってみるが、なかなか切れない。

「片腕か? それじゃその武器は使いこなせまい」

 特に嘲る様子でもない彼を見ると、こういった客は少なくないのだろう。この店なら怪我をして五体不満足になっても、立派に戦える武器が見つかるかもしれない、と誇り高い騎士なら最後の希望を持つことはおかしくない。

「待って。……ふんっ!」

 私はレバーを左手と口で思い切り締め付ける。すると肉は切れた。

「ふー、これで充分でしょ」

 顎がちょっと疲れるけど、歯がぐらつくようなことはないし、何よりバチン! と一撃の威力が強い。充分だ。

「待て、それじゃ実戦で使い物にならんだろう。止まっている肉しか切れん」

「止まっている肉が切れれば充分よ、私はね」

 切るだけなら二秒で充分。八秒で敵に近づき二秒で切る! 大丈夫でしょ。

「じゃ、もう完了ね。帰りましょ」

「ええっ! ……そうですね」

「うん」

 鎧とリウス擬きは渋々頷いた。

 ストースは少し不思議そうに見て、呟いた。

「その武器はデスイーター、と言う。大事にしてやってくれ」

「デスイーター……変な名前つけるのね」

「うるさい!」

 顔を真っ赤にしてストースは怒るが、私はその名前を少し気に入った。

「デスイーター、そうね……、有難く、大事に使わせてもらうから」

 DeathとSweetにスペルは繋がりはないが、日本語ならば充分似過ぎている。この世界の言葉にしても関連はないかもしれない、私だけが感じられる奇妙な繋がり。

 これで奴らを殺す。そんな決意を新たに私は復讐の炎を胸に燃やした。

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