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アルカ救出と滅び行く国

 スイートと共にゲルとかパオとか言うような遊牧民のテントを燃やし続け、かれこれ一時間。

 私は今まで見た事のないような奇妙な存在を目にした。

 顔には『三』と大きく数字が銘打っており、全身タイツのようなそれは古めかしいヒーローのように滑稽で、不気味であった。いや、どちらかというと悪の戦闘員か。

「貴様ら、番号を言え!」

「スイート、あれなに? 私あんな分かりやすく番号とか持ってないけど。強いて言うなら二十五だけど」

「あれは……たぶん、噂で聞いたことあるよ。戦争党の国防四人組」

「なんじゃそりゃ」

「番号はたぶん四人のじゃなくて、戦争党のだよ。あそこって全国民にナンバーがあるから」

「そりゃ最先端ね。面倒臭そう」

 言いながらスイートは肩のあたりをストレッチし、私も懐からハングドマンを取り出していた。戦うしかないだろう。

「……やはり貴様ら、戦争党との不和を生み出し戦争へと焚きつけようとする悪逆の輩であるな? 戦争の名の下に成敗する!」

 はっきり言って意味不明。

『戦争党が戦争起こそうとしてる奴を止めるってんだから、呆れるぜ』

(そういう矛盾がある存在って本来短命だけど、彼らはその保守主義が身を守りそうね)

 最も戦争党が長寿だろうと短命だろうと私には関係がない。

 私は私が長く生きられれば、いや長く生きずとも満たされた生き方ができれば、それでいい。

 そのために、今は生きる。

 今は変身するのだ。

「このドラインドの神速魔法に敵うか!?」

「あー、本当に手の内曝す人って好き。馬鹿で可愛らしい」

 彼の神速とは本当に凄まじいものらしく、私の瞳に彼の姿が映らなくなっていた。

 その瞬間に時を止めれば、近くに彼の制止した姿が見えるのだが。

 スイートもまた魔法を使い距離を作っているようだが、ドラインドとやらを倒すのには十秒もいらないだろう。

 はぁ、なんか時を止めるっていう偉大な能力を持っているくせに、この世界での私の戦績って映えないのよね。

 だって敵が化け物ばかりじゃない? 距離遠くから雷降らすし、力は子供の教皇にも負けるし、何なら勝てるのかって逆に不安になっていたくらい。

 けれど今、目前の敵はあっさりとマスクを剥がすことができるし、柔らかそうな眼球は鋭く勇んでいる。

 いかに異世界人と言えど自前のナイフでちょこっと傷つけられるだけで悶絶する場所の一つや二つはあるものだろう。


 目を抑え叫び転がるドラインドを見て、距離を取っていたスイートは驚きで動きを止めた。

「……な、なに?」

「私だってやればできるのよ? 黒目は切ってないから丁寧な治療をすれば、以前ほどといわずとも視力は充分回復するだろうし、死ぬことはまずないから」

 この世界の医療レベルはよくわからないが魔法がある。もしかしたら目がなくなっても回復するのかもしれないけど。

「それは……そうかもね。でもちょっぴり驚きだよ、いつもあたふたしてると思ってたから」

「私もあなたに対してはそういう印象があるわ。しかし悶絶しながら転げ回る人を前に、私達は呑気なものね」

 敵兵は同じ人間と思わないことは軍人の基本だろうが、ここまで現実味のない戦闘員のような敵ならそれも楽だった。マスクを剥いだ瞬間は――戸惑ったが。

「とにもかくにもこれだけやれば騒ぎになるでしょ。しかも傍には怪しげな戦争党の特派員、誰かが見つければ国際的な問題は間違いなし。任務完了、甘いものでも食べましょう」

「それ言っとけば私が釣られるとでも思って? まあ釣られてあげるけどね。うっふっふー」

 スイートは人懐こく私の腕に腕を絡めて歩いてくる。なんかカップルみたいで少し恥ずかしい。

「あなたっていくつだっけ、スイート?」

「いきなり何? 十六だけど」

「十六!? ……まあそれならいいや」

 アルカとか子供にはこういうことをされるから。しかしスイートは十六か。十六とは思わなかった。若いなぁ、同い年かちょっと下くらいだと思っていた。

「しっかりしているのね、正直見直した」

「何それ? 失礼な。ま、いいけど」

 ともかく私はホオフに会わなければならない。

 この物騒な敵に対して何も言わなかったのだ。彼がこいつがいることを知らないわけがない、一体何を考えていたのかは直接尋ねなければならない。



 スイートも加え、しかしウラルド抜けて四人が集まったホオフのテント、そこで私は怒り心頭で叫び散らす。

「どういうことよ、あんな変人と私を戦わせるってのは!?」

 実際そこまで怒ってはいないが、ホオフ自身がむかつくのでちょっと大げさに怒っているフリをしている。痛い目を見せたいのだ、こいつには。

 だが彼は平然としている。

「戦争党のお祭り部隊の一人くらいにギャーギャー喚くなこの愚人がぁ!! あれと遭遇する確率は高く見積もって十パーセント、負ける確率は更に高く見積もっても五パーセントだ!」

「私が一パーセントでも死ぬ可能性があるなら先に言いなさい!」

「言えば貴様は断るだろうが! そっちに行けばこの小娘が味方になると分かって、私が融通してやったというのに……」

「それは知らなかったけど感謝するわよ! でも私は私の命が一番大切なの!」

「クズだな」

「うるさい!」

 ホオフにクズ呼ばわりとは耐えられないものだが、彼も彼なりに考えがあることは分かる。ともかくこのアルカ救出作戦についての考え方が私と最も近いのは彼だろう。

 ジャッジメントとウラルドの使命感は強い、だが私もホオフも最悪投げ出して逃げ出せばいいと思っている。その上で、できる手は全て打っている。

 根が真面目なんだろうと自分で思うのはどうかと思うが、どうして付き合う義理もないのにこんな風に命を懸けるのか。アホだ。

「ところで、ジャッジメントはどーしたの? なんか呆然としているみたいだけど」

 正座の姿は変わらないけど、ぽかんと口が開いているからほとほと疲れているようにも見える。

「ああ、そのことか。実はだな、テントを燃やしただけでは処刑は免れんのだ」

「え?」

「いや、テントを燃やせば処刑が長引き、それで他の国の干渉を受けるように話したが、あれは嘘だ」

 この男が何を言っているのかよく理解できないが、それを理解した後でジャッジメントがこのようになっているとすぐに理解できた。

「故にな、焚きつけてきたのだ、エンペラー帝国を」

「……はぁ?」

「戦争になるかもしれないという危惧だけならば、処刑を速めるだけ。しかし戦争に突入してしまえば延期せざるを得ないようだ。さて、直に来るだろう」

「は、ちょっと……」

 いや、既にテントの周りから『敵襲ー!』という声が鳴り響いている。

「あんたねぇ……常識ってものがないんじゃない?」

 この男、独断で戦争を始めた、そう言っているのだ。

「キチ○イ思想家幼女を助けようという貴様の方が余程常識外れだ。さて、どさくさ紛れに殺されぬよう、アルカを保護に行くぞ」

「……それってまさか」

「ああ、唐突だが作戦の実行だ。このままレベルレットに亡命しよう」

 ホオフは端然とした様で、一人テントを出た。なんでこいつリーダーシップ発揮してるの?

「ああそうそう、商人のスイート、貴様に話がある。少し二人きりにしてくれ」

 思い出したかのように部屋の中に戻った。やはり間が抜けているところは変わらない。

「すぐ来なさいよ」

「話はすぐ終わるつもりだ。構わんな、商人?」

 スイートは殆ど関わりがなかった男に戸惑い気味だが、ここで裏切るような男でもあるまい、放心するジャッジメントを連れて私は先に出た。


 すぐにアルカが祀られている祭壇には辿り着いたが、阿鼻叫喚の様相を成していた。

 互いに向かい合う巨大な鎧、うち一人はアルカを庇い矢の雨を受けながら、もう一方の鎧からの剣の猛攻を捌いている。

 だがその周りでは、統一された鎧を着た兵隊たちと争う白衣を着た魔術師たちがしのぎを削っている。戦況は、下を見れば赤く染まった白衣の多さで分かる。

「一気呵成に加勢しますか」

 ちょっとお茶目に言ってみたが、ジャッジメントは冷たい。

「騎士相手では分が悪いです」

 それは見れば充分に分かることだった。

 こちらの世界で騎士と言っても単なる剣士と変わらず、むしろ銃なんかですぐに死ぬ印象しかなかった。

 だが、一対一なら負けぬとウラルドは言っていたが、私達が束になってかかっても勝てないだろう速さと力強さが目に見えた。現に周りの誰もがウラルドとアンドレアスの戦いに介入しようとせず、遠くから矢を放つだけだった。

「でも、私ならなんとかできるわ。何秒かだけならね」

 止まった時間の中でアンドレアスの邪魔をできればウラルドは楽になるだろう、だがそれだけではどうにもならないのも確か。

 そしてすぐにホオフとスイートが戻ってきた。でそのままホオフが言う。

「リナ・リーベルト、お前が命令を出せ。俺にもここからの未来は読めん。お前のせいでな」

 無茶を言うが、それに対して弱音を吐く時間はない。

「ジャッジメント、アンドレアスに雷を落として時間を稼げる? いえ、彼を一瞬動揺させてくれれば何でもいいわ」

 彼女は自分が引き起こしてしまった戦争に多少は恐れているようだった。けれど、力強く頷いた。

「ホオフとスイートはアルカをウラルドから受け取って。彼を戦力としてアンドレアスにぶつける」

 二人は黙って視線を合わせ、頷いた。私は意外に信頼されている。

(それじゃ亡命を始めましょう。ハングドさんも覚悟はいーい?)

『お前と過ごして以来、常にしているよ』

 戦場の火の中を駆け抜けながら、私は変身した。

「ジャッジメントお願い!」

 瞬間、地響きと雷鳴がアンドレアスを襲う。体勢は大きく崩れたが、雷を防ごうと腕を伸ばし剣を天高く掲げている。

「止まれ!」

 叫ぶ、止まる、そして無防備に見えるアンドレアスの姿が目に入る。

 私の目的は剣を奪い取ることだ。急ぎ彼の膝を足場にして腕によじ登り剣に手をかける。

 だが想像以上に拳は固く握られている、とても私の力では引き剥がせそうにない。

 ならばどうするか。とりあえず兜を剥ぎ取り、そこで時間切れだ。私は安全だろう場所まで走り去った。

「げっほげほ! 時間切れ……だけど成果はある! スイート! ホオフ!」

 言うや否や二人は走ってウラルドに近づいていく。

 けれどこれで大丈夫だろうか、剣のあるなしでは戦況は変わるが、兜のあるなしって違いはあの騎士にとって大きな差異ではない気がする。

 だが、無事にアルカはホオフの手に渡った。これで戦況はあくまで五分五分のはず。

 これでも相討ち、まだ手立てを考えねばウラルドが死ぬかもしれないとは。

 そこは私の能力とスイートの魔法で翻弄していきたいのだが、あれに不用意に近づくのは危険だ。

 どうしようとうろたえていると、アンドレアスは標的をホオフに切り替え、斬りかかった。

「ホオフッ!」

 短く叫ぶが彼はまるでそれを予期していたかのように平然と走り続けると、間にウラルドが入り彼を守った。

「騎士は戦う以前に人を守る仕事だ。よって私が死ぬことはなぁい!!」

 私には干渉できない範囲の出来事というわけだろう、彼にはある程度読めていたのだ、なんというか卑怯。

「それでホオフ、一人でアウロラまで行ける? ジャッジメントとスイートと私でアンドレアスを倒したいんだけど」

 こういう時に彼の能力は本当に役立つ。彼も緊迫した状況にありながら邪悪な笑顔が止まないのは、退屈な未来を読むよりも自分の能力を応用し発揮するのが楽しくて仕方がないからだと思う。

「俺一人では無理だな、死ぬ。それとウラルドはもう諦めろ」

「はぁ?」

「あれはもう相討ちの運命だ。逃れられん。お前はスイートとレベルレットへ行け。ここはもう滅ぶ」

「それ、ってどういうことよ?」

 俄かには受け止めがたい、けれど頭の奥では本当は充分理解できている、彼が言う以上はそうなるのだ、と。

「戦争党の三番を倒しただろう。二番が来てここが滅ぶ。既に我々も国を移動しなければ危険な時間に入った」

「ちょっと待って、情報を整理させて」

「簡単なことだ、ウラルドはもう助からん。アンドレアスもな。そしてそれだけだ、アルカの亡命は成功するし、貴様はレベルレットに無事辿り着く」

「それじゃ無事じゃないのよ!」

「リナ、俺が言うのも変だがお前はツキがついて回っている。普通なら全員死ぬはずが、俺とお前で作戦は成功することになったんだ。ウラルドが一人で死ぬだけならば、充分だろう」

 不充分だ、けれど術が思いつかない。

「こうなりゃヤケよ! あの玲子の助手譲りのやけっぱちを見せてやる! ホオフ! 私をジャイアントスイングみたいにド派手にぶん投げなさい!」

「ジャイアント……なんだ?」

「アンドレアスに向かって凄い勢いでぶん投げろって言ってんの!」

 自棄だ。何も考えていない、ただのヤケ。

「いい? ウラルドはあんた達と一緒に逃げる、アンドレアスは多分その後を追う。その未来を読みなさい」

「……ははははっ! やはり貴様は面白いぞリナリーベルトォォォオオオオ!! おおおっ!」

 ホオフは私の足を掴み、乱暴に、放物線を描くように本当に放り投げた。

 弾道は緩やかで虹のようにゆっくりと飛ばされる。イメージではもっと勢いがあるのだが……ともかく変身!

 重力に従う体は充分な勢いをつけている。時間を止めても私の時間は止まらないからその勢いは殺されない!

 アンドレアスは既に私に狙いを定め、しかも殊勝な彼は避けることを考えず迎え撃とうと剣を構えている。それがベスト!

 時間を止めては斬れまい!

 勇猛なマスクドライダーのように姿勢を変えて、そして時間を止める。

 蹴りは彼の頭に直撃し、そして時間を動かす。

 だが私の蹴りは浅く、アンドレアスは転倒すらせずに私を睨んだ。

 剣は先ほどのように構えたまま。

「邪魔するか異世界人ッ!!」

「リナッ!」

 スイートが走ってくると同時にウラルドも再び剣を構える。

「遅くなれ!!」

 初めての低速化だが、なんとか間に合いそうだ。

 ウラルドの剣は無事にアンドレアスの鎧すら裂きそこから真っ赤な鮮血が溢れた。

 ああ、彼にも悪いことをしてしまったかもしれない、なんてことは思わない。だってここは既に戦争状態で人が多く死んでいるのだから。

 そして何より、彼の剣はゆっくりと私の右腕を切り裂いていたのだから。


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