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アルカ救出計画・交錯する想い

 私もスイートと同じ大型のテントで寝泊まりすることになっているわけで、殆ど四六時中共にいるようになっていた。

 アルカの処刑について、三日間の処刑法についての投票があり、その三日後に処刑するという。

 残り五日。なんで私はいつもこんな風に時間に追われるのだろうか。時間を操る能力が聞いて呆れる。

 こういう場合は味方を作るに限る。して私の味方と言えばもう一人しかいないだろう。

「でさ、スイート、アルカを助けたいんだけど協力してくれない?」

 当然他に誰もいないテントの裏でこっそりと聞いたのだが、スイートは、はぁあと、こいつまるで何も分かってないなぁ、という感じで溜息を吐いた。

「私は商人ですよ? 一銭の得にもならないことをなんでするわけ?」

「あなたは利益より甘いものでしょ?」

「だからこそ許せないって言ってるわけでしょ!? あの女は私のチョコレートを食べたの! チョコレートを食べたの!」

「分かったから落ち着いて」

「分かってない! リナは私の気持ち分かってない!!」

 怒りが蘇ったらしくスイートはまたギャーギャーと騒ぎ出す。扱いづらいなぁ、もう。

「でも冷静になって考えてよスイート。無垢な少女一人を処刑するために国を挙げて戦うなんて異常でしょ? あなたの良心に相談して考えてみて?」

 そう聞いてみると、スイートは少し考えた後、冷たい声音で言う。

「やっぱり、悲しいけど殺すべきだよ。リナは分からないだろうけどさ、人の心を操る魔法ってすんごい気持ち悪いよ。どうにも説明できないけど、心の牢獄に閉じ込められたかのような、そんな気色悪い感覚。罰するべきさ」

 それは、確かに私には分からない。

「それでも、絶対に殺すべきだと思うの?」

「……これ以上考えさせないでよ。あれが私に何したか分かってるでしょ?」

 言ってから、スイートは私から逃げるように去って行った。

 確かに彼女をこれ以上誘うのは酷かもしれない。私のために憎い相手を助けろなど、どの口が言えたものか。私とスイートの仲は、どれくらいのものなのか。

「友達として! 友達として、助けてくれないかな!」

 その時、既にスイートの姿はもう見えなかった。

 私は、私は……。

 いや、何も思うまい。

 今は、今できること、これからすることについて考えるだけだ。



 私は時を止めて動いたり、加速、あまり使わない低速化もできる。

 時間操作の対象が一人に限られるので、敵を遅くするより自分を速くした方が楽だし便利だからそうしているのだが、これからはこういうことも視野に入れた方が良いだろう。特に、仲間と共に戦うのならば、だ。

 ホオフは未来を読むことができる。彼に言わせてみればあらゆる願いを叶える能力と同義だが、私が関わるものの未来は、テレビの砂嵐のようなノイズが混じり、ぐちゃぐちゃになるらしい。

 私が近くにいても私が関われない物の未来は変わらないし、一方遠くの国のことでも私と濃密な関係になるだろう人の未来はすっかり読めなくなっているとか。

 それを語る彼の口は飄々と軽く、どこか楽しげであった。私を憎んでいるとは思えないほどだ。

 残るウラルドはただの騎士である。便利な魔法の類は使えない。

 だがこの世界の騎士とはまた特別な存在らしく、例えば私が今まで戦ったレイフェスやジャッジメントのような人間とは、一対一ならほぼ絶対勝てるそうだ。彼の口振りがあまりに自信気だったのでそう思っておくが、一対一で戦うとは思えないし、要は単なる腕自慢。

 私が人のことを言えないが、やはりホオフに頼り切りになりそうだ。

 そのホオフに少し未来を尋ねてみた。

「未来を読むまでもない。ウーとアーが絡んでいるうちにアルカが死ぬ」

 だろうなぁ、と私は溜息を吐いた。



 処刑法が決定する二日前、スイートともよそよそしくなり、どうも考えがまとまらなくなった。

「元気ですか?」

 不意に話しかけてきたのは、相変わらず修道服のジャッジメントだ。

「あなた……、そういえば私を殺すってのも全員の意志をどうとか言ってたけど、今は私を殺さなくていいの?」

「ええ。皆さん急にあなたへの殺意がなくなりましたから。……まあ、アルカの影響でしょうね」

 皆、私に嫉妬して殺す方に傾いていたわけだ。だらしない奴ら、というよりもそれだけアルカの魔法の影響力が凄かったのだろう。

「にしても、今日の午後に処刑法が決まりますね。一体どうなるのやら」

「それは別にどうでもいいわ。五日後の夜に処刑ね」

 処刑方法はまだ決まってはいないが、ホオフ曰く磔刑(たっけい)だそうだ。(はりつけ)にして数日間放置、こっそり助け出すことはできないから、作戦は早い方が良い。

「ジャッジメントは確か、全員の意見の代弁者なのよね?」

「まあ、そんなところです。ただし、それを行うかどうかを決めるのは私ですが」

 あくまで独裁的、しかして皆の意見に耳を傾けると。奇妙な立ち位置だ。

「で、アルカを殺すべきって皆が言ってるわけだ」

「ええ」

「それって、どこの皆?」

「はい?」

 ふと疑問に浮かんだから尋ねてみる。

「いや、私は魔法にかかってないからアルカなんて死んでも生きてもどうでもいいんだけどね。この国の人にとったらアルカは自分の気持ちを弄んだ犯罪者だって決めつけるけど、全世界的に見たらただの小さな子供が、悪戯したら処刑される、みたいな問題じゃない? だから、全世界の人が見たら、アルカは殺しちゃいけないって言うんじゃないかしら」

 聞けば彼女は顎に手を当て真剣に考え始めた。

 これはもしかしたら引き込めるかもしれない。

 前の世界のジャッジメントは優柔不断の腹黒っぽい女だったはずだが、こっちのは思い切りが良いし、強い。

「……であるなら……そうですね、もし止めるなら協力者を募るべきでは?」

「そんなムードじゃないでしょ、どう考えても。国の外の人に助けを求めるには時間が足りず、国の中に味方はいない。さてどうしましょう?」

「……アルカを死なせてしまうことは世界の意に反すると、その確信はありますか?」

「一度失敗した子供をいちいち殺してたら、世界が滅ぶと思うけど」

 無論、時と場合にも拠るだろう。だがそんなことは言ってられない、私は一人でも多くの有能な人物が欲しいのだ。

「……どうしたら、いいと?」

 彼女の冷たい瞳は果たして何を考えてのものだろうか? 無力感を味わえと、私がそんなつもりで言ったとでも思っているのか。

「協力してくれない? 計画は何にもないんだけどね」

「あなたのために死ねと?」

「世界のためよ」

 彼女はまた沈黙した。思想家というやつはちょろい。世界のためとか神のためと言えば味方になるのだ。と思ったが、そこまで彼女は無能ではなかろうな。

「……計画、何もかもないのですか?」

「ん、まぁ端書(はしがき)程度はあるけど」

「それだけでも」

 会話の内容が内容だから静かなのは当然だが、少し冷静過ぎるというか、反応が真面目すぎるのが心配だ。

 使命感に燃えているのも危険、こういうタイプは死も(いと)わずに努力する。作戦に付き合わせて死なせるような真似はしたくないのだが。

「ホオフが味方についているから、彼の未来を読む能力を最大限生かし、アルカをアウロラに亡命させる」

 彼女は淡々としたまま、ちょっと考えて再び口を開く。

「うまく行くと、お思いですか?」

「成功する確率なんて考えるだけ無駄よ。この先ちょっとでもよくするにはどうしたらいいか、それだけ考えるの。さあジャッジメント、あなたも私達の同士よ! これからはジャッっさんとでも呼ばせてもらおうかしら!」

 困惑して呆然とするジャッジメントを見ると、仲間に引き込めたと考えてもいいだろう。いいに決まっている。さてこれで愉快なメンバーが揃った。

「メンバーはこれで四人、さあどーなるかしら、ふふふ」

「大丈夫ですか? 自棄になってませんか?」

「へーきへーき、普段はむしろこんなもんさ!」

 普段を忘れるほど最近は頭を固くして困難に立ち向かっていたわけだ。それは今も変わらないが。

「それじゃ、近々全員集合しないとね。計画を考え、実行するのよ。さーもりもり食べよー!」

 浮世離れした気分でがつがつと慣れぬ味の穀物を食う私の姿は、きっとジャッジメントを不安の渦に叩きこんだだろう。



 処刑まで残り三日、ホオフの予知通りの処刑法が決まり沸き立つ中で、ホオフとウラルドは警備の任を別の人に変わってもらった。同時に抜け出すことに気付いた者がどれだけいるかは知らないが、多少なりとも疑われはするだろうか。それが不安である。

 集合した場所はホオフの専用テント、アルカのものよりとても小さいが、四人程度なら全員が適当に寝転べるくらいのスペースはある。

 気になったのは内装だ。壊れたプラネタリウムのように真っ黒い生地に、牛乳を零したような白いドットが無造作に散らばっている。アルカのテントにあった整然とした幾何学模様と比べると、雑然の一言に尽きる。

 ウラルドが胡坐をかき、ジャッジメントが正座し、ホオフがだらしなく寝転がる中で、私一人が立って演説するように言う。

「えーえー、本日はお日柄もよく、絶好の計略日和となりました。司会はこのリナ・リーベルトがさせていただきます!」

 拍手はない。ウラルドは無言だし兜で表情も読めず、ジャッジメントの表情は硬いし、ホオフに至ってはさっさとしろ、と手を振っている。

 面白味のない奴らだ。悲しいよ、私は。

そんな溜息と、気持ちを落ち着かせる意味も込めて深呼吸して、声を静めて早速話を進める。

「作戦のあらましは、ホオフの能力を最大限に活かし、アルカをアウロラ共和国に亡命させる、となります。そのためには、脱出のためにここの国民から道を開き、移動するための馬を用意する、って程度ですね。路銀なんかはどうとでもなるでしょ?」

 アウロラと対立魔導にも多少の距離はある。食糧などがあるに越したことはないが、対立魔導外の商人や、緑の大地に住む動植物を食べることもできる。アルカなら魔法で火を(おこ)すこともできるだろうし。

 が、それ以外の点が問題だ。

「して、どうやって人の海から抜け出し、馬を殺させずそこまで移動させるんだ?」

「そこはウラルドも考えてよ」

 はー、と三人から溜息が漏れた。

「話にならんではないか! 異世界人の未来がどのようになるのかと期待して見れば、恩を返す前から仇で返すつもりか!?」

 ホオフの言葉は非常に耳が痛い。仰る通りだ。

「協力したくないってんならそれでいいわよ。あんたを無視してレベルレットに行くだけだから」

「我が力を借りなくたっていいと? ほほう言うではないかリナ・リーベルト」

 きっと周りから見ればバチバチと火花が散っているのだろう。が、仲間割れしている場合ではない。

「馬ならば、多くはないが複数のテントに繋げられているだろう。足になる動物ならば尚のこと。最悪逃げ出す時に馬がいなくとも、逃げながら足を得られるだろう」

「なるほど。じゃあ問題は道を作る方法ですね?」

 火花を散らしている間にウラルドとジャッジメントで話を進めている。やはり地理に詳しい人物が味方にいると助かる。

「ふん、情けない異世界人だ」

「私に取ったらあんたのが情けないわよ異世界人」

 ホオフの憎まれ口を面倒にお持つが、亡命について割と前向きに考えられるのは良い傾向だ。

「まあ、とにもかくにも、アルカを助け出し逃げ出す方法を作らなければならないわけね」

 ジャッジメントが雷を降らせばそれで道はできるだろう、と思ったが彼女はその方法に首を振った。

「私の災害魔法は本物に比べればはるかに規模が小さいです。確かに光と音で驚かせることはできるでしょうが、そのパニックで綺麗に道を作るのは不可能でしょう」

「そうは言っても、物理的に干渉できる魔法を使えるのがあなただけなのよね、ジャッジメント」

 彼女は地形を多少変化させたり雷を振らせたり、と優秀な魔法使いだが現状では一戦力にしか過ぎなかった。

 具体的な答えも出ないまま会議は止まる。

「やはり有志を募るしか……」

「そうは言うけど、作戦の漏洩が一番恐ろしいのよ。余程信頼できる人じゃないと」

「でもリナは私を誘ったじゃありませんか」

「それはあなたの思想を知っていたからよ。でも他はスイート以外知らないし」

 と言って三人をそれぞれ眺めまわした。私はそもそもこの国に知り合いがいないが、三人はそれぞれの友人なんかがいるはずだ。そこに助けは求められないだろうか、と願う視線だ。

「生憎だが私はアルカ様の警護を司っていたため、アンドレアスとしか語らわなかった。故にアンドレアスしかいないのだ。その彼は本国への忠誠のためにアルカ様を最も恨んでいる」

 ウラルドは淡々とそう言った。そんな彼はその旧友と敵対することになっても構わないのだろうか、それが気になる。

「私は公平な立場から審問を下す裁決者ですから、私的な友人はいません。誰もを公平に扱っていますから」

「またまたジャッジメントはそんなこと言って、本当は友達の一人や二人はいるんでしょ?」

「いえ、残念ながら。恐れられていますので」

 言い終わった後、ジャッジメントはどこか寂しげな表情で顔を逸らした。本当にそういう相手がいないのだろう。

 最後にホオフをちらと見たが、すぐに顔を逸らした。

「ふむ、言うまでもないな」

「うるさい、なんで自慢げなの?」

「そもそもだ! 親友の一人や二人連れてきたところで何も変わらないと思わんか!? 敵の戦力は一国の軍に値する! なればこそ、一国の軍をぶつけるべきだろう!!」

 とホオフは急に堂々と語り出した。どうやら自信があるらしい。

「ほほう、ならばホオフさんにはその腹案がおありかしらん?」

「ある! 今、アウロラ共和国と戦争党の未来が激しく蠢いている! これを利用すれば内政干渉は十二分に可能だ!」

 彼は叫んだ。

 残り三日は忙しくなりそうだ。

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